話の続き9
土曜日は4時にバイトをあがり、6時に友達と喫茶店で井戸端会議をする予定だった。
もちろん行く予定の喫茶店の中に井戸はない。とりとめもなく、会話を続けるのは私も好きだ。何となく、沢山話して満足する。男の人は「何の結論も出ていない話を永遠とよくできるな…」と頭を抱えるけど、私たちからしたら、話すとはそういうことなのだ。
そういうことで喫茶店をはしごすべく、エプロンを畳んで、鞄にしまった。店長は京都に行って以来抹茶にハマったらしく、ここで抹茶を活かした新作を作るのが普通の喫茶店の店長なのだろうけど、うちは自由な人だから一人でひたすらに駅前で売っている抹茶ケーキを食べている。
斉藤さんは今日は私と入れ替わりで4時からのシフトだ。
待ち合わせまで2時間あり、待ち合わせ場所までは15分かかる。余裕を持ちすぎた。時間が少し余ってる。私もたまには店長みたいに席に座ってコーヒーを飲もうと思って、斉藤さんにコーヒーを注文した。持ってこさせるのは何となく気が引けたので、出来上がるのを傍で待って、受け取ってから席に向かおうとする。
「ついでに、原田さんにコーヒー届けてきて」
斉藤さんはそう言い、お盆にコーヒーを2つのっける。
「はーい」
仕事終わりで気分もよく、端っこのテーブルに座った原田さんにコーヒーを届ける。映画の字幕を作っているらしい原田さんはノートパソコンの端っこを指でコツコツとやりながら考え事をしている。
「コーヒーになります」
近づいてそう言い私はコーヒーを置く。
「ありがと、バイト終わり?お疲れ様」
原田さんはパソコンの位置を微妙にずらしてそう言う。
「どうも、原田さんはお仕事ですか?」
「うん、そうだね、向かい座る?」
「あ、はい」
一人でコーヒーを飲む気分でもなかったので、原田さんの向かいに座ることにした。
「翻訳のお仕事って難しいですか?」
指でパソコンの端をコツコツやる原田さんを見て私はそう聞いた。
「福井くんから聞いたのか」
原田さんが苦笑する。
「ええ、まあ」
「映画の字幕を作ることは、翻訳とは微妙に違うんだ」
「え?翻訳してるんじゃないんですか?」
「洋画はよく見る?」
「たまに見ます」
「あ、見るのか」
そこで原田さんは照れたような顔をした。
「でも、普段は吹き替えで見るんです…」
何となく申し訳なくって語気が弱くなる。
「ほんとか」
原田さんは今のがちょっと面白かったらしく大袈裟に笑った。
「映画って当たり前だけどシーンがどんどん変わっていくよね?」
「はい」
「そのシーンが変わる前に読み終える文量で字幕を作らなくてはいけないんだよ。だから必ずそのまま訳せばいいってわけではないんだ」
原田さんはそう言ってコーヒーを啜る。
「あーなるほど」
「例えば、アメリカの家族がお出かけに行こうとする。最近ませてきた長女のアンジェリカは、おへそが出るようなTシャツにジーパンといった格好。それに向かってお母さんは『もっときちんとした服に着替えてきなさい』という。この台詞を言う間の1秒弱でシーンはガラリと変わる。1秒弱で字幕を読ませなくちゃいけない。しかも、会話としての自然さもいる。さて、河原さんならどう訳す?」
「うーん、難しいですね」
ここ二日とても忙しくて、更新できませんでした。
忙しい時って本当に忙しいんですね。明日は更新できると思います。




