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銀河一夜物語~宇宙翔る魔法使いとの約束~  作者: 宮城 英詞
魔法使いのお仕事

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9/23

帝国の魔術師

 街は、突然降下してきた戦闘用ドローンの群れでパニック状態になっていた。


 あちこちに規制線が張られ、ドローンが飛び交う。


 邪魔な車はクモ型ドローン戦車に踏みつぶされ、移動させられる。巻き添えを恐れた人々が逃げまどって規制されていない道を塞ぎ、どの道も通行が困難な様だった。


「参ったな。これじゃ宇宙港までたどり着けないよ」


 バットはどうにか逃げ込んだビルの谷間から、上空を飛び交うドローンを伺い、困り果ててうなった。


 通信が通じないので状況はさっぱりだが、様子を見る限り宇宙港方面行くほど警戒が強くなっている。


 どうやら、自分たちを探していると考えた方がよさそうだ。


 バットはいよいよ自分がとんでもないことに巻き込まれていることを認めざるを得なかった。


 一体どこまで自分がかかわっていることがばれているか知れないが、こうなると自分の助かる道を模索するよりほかにない。


 バットは、今となってはもう頼らざるをえない魔法使いを見た。


 彼女も、この状況は意外だったらしく、腕を組んで考え込んでいる。


「私も人の事は言えないけど、このやり方は余りにも強引だわ。一体何をそんなに焦っているのかしら?」


 確かにここタサカは、莫大な資金提供の見返りに商人たちの自治が認められた自由貿易惑星としての地位が銀河連邦から認められている星である。造船所で軍艦が建造されていたり修理のためドック入りするためにやって来る軍艦はあるものの、陸戦部隊が街を占拠するなど、少なくともバットは聞いたことが無かった。


「今のところ私が言えるのは、この銃が相当重要な物ってことくらい。こうなるとこっちも手段を選んでいられないわ」


 そう言うとアテナはまたアンジェロを取り出す。それに、バットは猛烈に嫌な予感がした。


「……まさか」


「飛んで行くのよ。ここから」


 やっぱり。


 バットは先ほどのあのスリリングな飛行体験を思い出しげっそりとなった。

 それにアテナは自分の杖をバットに手渡す。


「仕方ないわよ。グズグズしていたら、どうせ見つかるし。貴方の船もどうなるかわからない。ここは多少リスクを背負ってでも、状況を動かさなきゃ」


「「多少」ね……」


 いいつつ、バットは手元のアンジェロを見つめたが彼はピクリとも動かなかった。


 どうも、彼にも他に選択肢が見当たらないらしい。


 いや、バットと同じく「抗議しても無駄」と判断したのかもしれないが。


 そんなバットを横目にアテナは、精神を集中する。


 すると彼女のローブが形を変えていき、鎧のような、宇宙服のような形状に変化した。


 彼女はその姿をまるでモデルのようにポーズを取ってバットに見せる。


「どう?実はこれ、「ローブ」っていう戦闘用の宇宙服なの。ミサイルの直撃食らって、ちょっと壊れてるけど」


 言われてみればあちこちにひびがあるが、これでミサイルの直撃を耐えたのなら、それなりの防御力はあるのだろう。


「空を飛べば、多脚戦車は相手にしなくていいんだけど、多分飛行型ドローンが群がって来るわ。できる限り守るから、バットはアンジェロと宇宙港を目指して」


「……また、縛られて飛ぶの?あれ、何とかならない?」


 流石にうんざりした顔でバットが言うと、持っていた杖が動き出した。


 杖は横になって浮かぶと、ハンドルのようなものと、シートのようなものが形成される。


 これに乗れ、という事らしい。


「……お気遣いどうも」


 やはり空を飛んで行くという選択肢は変わらないらしい。


 バットがしぶしぶシートに腰掛けると、今度はシートベルトのようなものがバットの体をしっかりと固定した。


「あんまり高い所を飛ぶと、大型の奴に狙われるから、ビルの谷間を飛んでくわよ。ついてきて!」


 そして二人は、ビルの隙間から飛び立った。





 それは先ほどとは違う意味でのスリル満点の飛行だった。


 ビルの間を飛び、曲がり、すり抜ける。


 先ほどとはスピードは遅いらしいが、看板や街灯がすぐ近くにあるところを飛んで行くスリルはジェットコースター以上のものだ。


 バットはその恐怖に必死に耐えながら、なんとか前を向く。


 そのうち、後ろからどんどんと、飛行ドローンが群がって来る。


「来た!」


 どう考えても、怪しい飛行物体なのだから、追われて当然だが、何しろ数がすごい。


 スピードでは追いつけないようだが、曲がり角を曲がるたびにどんどん数が増えていく。


 気が付くとドローンはバットたちの後ろに大群になってついてきていた。


「どうするの?あれ!」


 流石にあの数で、囲まれたらどうにもならない。


 だがアテナはそれに、


「計算通りよ!」


 と答え、飛行したままそのドローンの群れに向かって印を切る。


「爆破!」


 彼女のスーツが光を放ち、後方に強烈な爆発が起きる。


 爆風は周辺のビルのガラスや看板と共に、密集して追跡していたいたドローンたちを、まとめてなぎ倒した。


「ほら、こうやると、一発で解決よ」


 そう言って得意げに胸を張る彼女に、バットは驚いていいのか、感心していいのか判らないまま頷いた。


 そして二人は空港に続く大通りに行きつく。


 それを待ち構えていたかのように、数機の大型ドローンがビルの谷間から二人の頭上に現れた。


「あれは?戦闘機?」


 爆音を響かせながらまっしぐらにこっちに向かうドローンを見上げ、バットは体を強張らせる。


 だがアテナはそれに、飛行しながら向き合うと、


「まかせて!」


 と、言い放ちそれに手をかざしたす。


「マジックミサイル!」


 そして、彼女から幾筋もの閃光が飛翔する。


 まっすぐ、飛んで行くエネルギーの塊のようなそれは、正確に飛翔する戦闘機を貫いた。


 そして、それらは翼をもがれバランスを崩して墜落していく。


「さぁ、グスグスしていたら、また増えてくるわ。急ぎましょう!」


 まったくもって凄まじい威力だ。


 バットは、軍事兵器と対等に渡り合う彼女に心底驚かされていた。


 なるほど、これなら突破しようと思うのも、なんだか彼女のやることが大雑把なのも頷ける。


 そして、対抗するために軍隊を持ってこようというのも頷けるという者だ。


 もしかして、これに対抗できるのって魔法使いしかいないんじゃないか?


 そんな事を考え始めた時、今度はアンジェロが赤いランプを点灯させた。


 宇宙港は目の前。


 だが、アテナもそれに大きくスピードと高度を落とした。


「……まずい、居るわ」


「え?何が」


「……感じるの、私以外の魔法使いが居る。宇宙港でこちらを見ているわ」


 もう一人魔法使いが?


 そう言おうとした瞬間、アンジェロは急減速し、アテナはバットの前に立ちふさがった。


 そして、次の瞬間、まばゆいばかりの閃光と爆発が二人を襲う。 

   その爆風にあおられ、二人は大きくバランスを崩し、宇宙港の駐機場に、落下してしまった。


 アンジェロか、アテナかは判らないが、強力な力場が発生し、バットはなんとか直接地面に叩きつけられはしなかった。


 が、勢いは止まらず、地面を跳ねながら遠くに飛ばされ、最後は駐機していた宇宙船に体をしたたかに打ち付けた。


 アテナも同じだったのか、宇宙船がへこむほどの勢いで壁にぶつかり、そして地面に落下する。


 反射的に防御したのか、「ローブ」の防御力のおかげか、彼女もなんとか立ち上がれるほどのダメージで済んだようだった。


「度胸は認めるが、やり方がずいぶん派手だな?よほど腕に自信があるのかもしれないが、勇気と無謀は履き違えるものではないぞ」


 そして、頭上から声がする。


 そこには、軍服を着た男がこちらを見下ろす姿があった。


 まとう気配に違いこそあれ、それは間違いなく、魔法使いであろうことはバットにも理解ができた。


 彼はゆっくりと地上に降りると二人を眺めまわし、損傷だらけの宇宙服を着たアテナを睨みつける。


「……盗人め。名の名乗れ!」


 男がそう言うと、アテナはゆっくりと立ち上がり、口にたまった血を吐くと、手をかざしてアンジェロを飛び寄せた。


 アンジェロはそれに答え、吸い付くようにアテナの手に収まる。


 そして彼女は、ゆっくりと顔を上げてその男を不敵な笑みで睨み返した。


「名前を聞くときは自分から名乗るって、貴方の師匠は教えてくれなかったのかしら?」


 男はそれに、にやりと笑って腰のサーベルを抜き放った。


「……よかろう。聞くがいい、我が名はマルス!この銀河に戦乱を起こす者だ」


 剣をかざし、騎士のごとく名乗りを上げるマルス。


 あれだけの力を持った者同士が戦うとなったら一体これから何が起こるのか?

 魔法使い同士の睨み合いにバットは、身がすくむような思いだった。


 だが、アテナはそれを鼻で笑う。


 それどころか何か呆れたような顔で、マルスに語り掛けた。


「……あのさ、お兄さん。志を高く持つのは良いんだけど、初対面の人に目標言うのはやめた方がいいわよ?感じ悪いし、うまくいかなかったら恥ずかしいじゃない?」


「小娘が……!」


「あと、その「マルス」って名前。それ名乗るのに協会の許可いるって知ってた?ファンか何か知らないけど、私の前で名乗ってる時点で素人丸出しよ。……あなた、帝国の魔術師ね?なんの思い入れがあるのか知らないけど、嘘つくなら、もうちょっと考えて名乗りなさいな」


 帝国の魔術師。


 それはバットも聞いたことがあった。


 魔導帝国という、魔法使いが銀河の支配していた時代を復活させようとする魔法使い。


 それは、教科書でも、三流メディアでも教えられる、テロリスト以上の響きを持つ蔑称だった。


 先ほどまで区別がつかなかったが、アテナたち魔法協会とは対を成す組織らしい。


「さて、私が帝国の魔術師?……だとすればどうする?小娘?」


 マルスと名乗った男は、帝国の魔術師と呼ばれた事を薄ら笑いのまま否定も肯定もしなかった。


 それにアテナは、杖を突き付けた。


「まずはお詫びね。そもそも、私に奪われたもの取り返しに来てるんだから、その時点で貴方もう一つ失敗してるのよ?偉そうな顔してないで、泣いて返してくださいって、頼むのが筋じゃないの?まぁ、返さないけどね」


「……おのれっ!名乗れ無礼者!」


 ここぞとばかりにマルスを挑発するアテナに、とうとう腹に据えかねたか、マルスはそれにサーベルを振り下ろす。


 剣先から真空の刃がアテナに襲い掛かかる。


 アテナはそれをまるで待ち構えていたかのように、アンジェロを自分の手前で高速で回転させた。


 瞬時に杖の回転から魔法陣の模様が浮き上がり、マルスの刃はその力場に吸い込まれるように消えていく。


 そしてアテナはそれに再び不敵な笑みを返す。


「……いいわ、教えてあげる。私は術士アテナ。あんたみたいな奴が大嫌いな女よ!」


 そして、アテナは回転するアンジェロの魔法陣を両手でマルスに向かって打ち出した。


 それは、マルスの電撃のエネルギーに自分の魔力を加えた強力なものだった。


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