心で撃て
強烈な魔力の塊がマルスにおそいかかる。
だがマルスはそれに慌てず、サーベルで魔力の塊を受け流す。
そして今度は、上空から杖で飛び掛かって来たアテナの打撃を受け止めた。
アテナも抜け目ないが、マルスも見逃さず反応している、アテナが接近して、魔力を込めた杖で繰り返し殴りかかるが、そのたびにマルスは受け止め、そして受け流す。
その攻防は一見身軽なアテナが長い杖を自在に扱い、マルスを追いつめているように見えたが。マルスはその様子をつぶさに観察し、隙を伺っているようだった。
やがて、マルスがサーベルで杖を払いのけ、隙が開くと、マルスは空いた手をアテナにかざす。
次の瞬間、アテナは強烈な力で後ろに弾き飛ばされた。
それでも、アテナは回転しながら着地し、杖を地面に刺して印を結ぶ。対するマルスもサーベルを投げ捨て、印を結ぶ。
お互いの魔力が周囲に渦巻き、巨大な術をお互いに完成させようとしていることがバットの目にもよくわかった。
それは互いの魔力の純粋なぶつかり合いのように見えた。
「閃光!」
そして、互いがほぼ同時に力を解き放ったようにバットには見えた。
大きな力が二人の中央でぶつかり合い、まばゆいばかりの閃光が、辺りを照らす。
永遠とも思えるエネルギーの衝突の末、魔力が押し流されたのはアテナの方だった。
光の濁流が突き抜け、背後の宇宙船に盛大に爆発する。
魔力比べに競り勝ち、静かにほくそ笑むマルス。
だが、アテナはその爆炎の中から、姿を現した。
彼女は、軽やかに飛び上がると、いくつかの電撃を放ち、近くの宇宙船に駆け上がる。
「小癪な!」
マルスはそれに舌打ちすると、飛翔してアテナの跡を追いかけた。
「……これが、魔法使い同士の戦い……」
バットは素人には何が起こっているかもわからない戦いを必死で目で追いかけている。
ある意味それは、まるで華やかな舞のような美しさがあった。
そして、そんなバットの肩を誰かが叩く。
驚いて振り向くと、そこには、アテナの姿があった。
「え?アテナ?」
「向こうで戦っているのはアンジェロよ。間抜けな奴だけど、向こうの方が魔力が上みたい。貴方は急いで船に向かって」
「……アテナは?」
「あいつを後ろから蹴り飛ばしたら、すぐ向かうわ。急いで!」
そう言ってウインクするアテナに頷くバット。
確かにここに居ても足手まといにしかならない。
バットは方向を確認し、一目散に駆け出した。
そして、背後で爆発音が響く。
どうやら激しい攻防が繰り広げられているようだが、バットはひたすら振り向かず走った。
まずは船へ、この銃を守らなきゃ。
そう思い、駐機場を駆け抜けるバットだったが、爆発の音は頭上を駆け抜け、前方の宇宙船を砕く。
そしてついに眼前にアテナとアンジェロが、落下してきたことによって、バットは、その逃避行が、無駄なものであることを悟らざるを得なかった。
「アテナ!」
どうやら、大きな力で、吹き飛ばされたらしく、彼女は立ち上がることができないようだった。
振り返ると、少し軍服が焦げ、怒りに震えるマルスの姿が見える。
「……小賢しい真似を!」
どうやら不意打ちを食らわせ、却って怒らせたようだ。
マルスは術を練り始め、アテナはようやく立ち上がるかどうかの所。
間に合わない!
バットがそう考えた瞬間。ホルスターの銃が突如跳ね上がった。
吸い込まれるようにバットの手に収まり、誰に指示されたわけでもないのに銃を構えるバット。
「やめろ!」
そしてバットは反射的に叫んでいた。
その叫び声と共に、銃からエネルギーが放出される。
銃声と共に反動で後方に吹き飛ぶバット。
そして、それはマルスの肩を正確に打ち抜いていた。
「貴様が!?その銃を!?」
そしてマルスは、うめき声と共に衝撃で後ろに吹っ飛んだ。
バットは何が起きたかわからず、尻もちをついた姿勢で呆然と煙の上がる銃口を見つめる。
撃った?この僕が?
いや、今確かに。銃が、体が勝手に動いた。
そしてあの魔法使いを打ち抜いた?
聞いたとおり、魔法使いはその銃弾を防ぐことができなかった。
これが伝説の銃の威力……。
バットはその銃の威力を改めて認識し、手の震えが治まらなかった。
「……ありがとう、助かったわ。その銃は間違いなく、貴方を「選んだ」のね。もしかしたら貴方、魔法の才能があるのかも?ちょっと、妬けちゃうわね」
損傷だらけの「ローブ」に付いた土を払いながら、アテナはそう言ってバットをねぎらった。
振り向くと、マルスは、いつの間にか姿を消していた。
アテナはそれに周囲を見回すと。
「ほら、勝ち目がないとみて。尻尾撒いて逃げたみたいよ」
と、笑って見せた。
「その銃は心で撃つの。想いに答え、貴方の願いに答えるわ。……私が魔法を使うようにね」
バットは彼女に起こしてもらい、銃をホルスターに納めた。
心強いような、身に余るような。
バットはアテナの言葉にようやく先ほど何が起こったかわかった気がした。
彼女を守らねばという「想い」にこの銃は答えたのだ。
アテナはバットが状況を理解したことを確認すると手をかざしてアンジェロを呼び寄せた。アンジエロは遠くからくるくる飛んでアテナの手に収まる。
力を使いすぎたのか、アテナもアンジェロもふらふらのようだった。
彼女は「ローブ」の装甲を解くと、改めて周囲を見回した。
遠くに、ドローンの飛ぶ音が聞こえる。
「さぁ行きましょう。グスグスしてると、あいつらに囲まれちゃうわ」
そう言うと、二人は日の沈みかけた宇宙港の駐機場を走っていった。
もう、日没の時間は間近に近づいていた。




