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銀河一夜物語~宇宙翔る魔法使いとの約束~  作者: 宮城 英詞
魔法使いのお仕事

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ウイザードスマッシャー

 街を見下ろすほど高い高度を飛ぶこと数分、バットはなんとか郊外の自然あふれる川辺に降ろしてもらえた。


 宇宙船の船長としてある程度訓練は受けていたが、さすがに生身のまま空を飛ばされる経験も訓練も受けたことはない。


 ケガ一つなかったとはいえ、降ろされた後、バットは心の平静を取り戻すのにしばらく時間がかかった。


「どう?落ち着いた?」


 なんとか呼吸を整えたバットにアテナが話しかける。


 するとそれに反応したのか、巻き付いたものがするすると杖の形に戻っていき、チカチカと何やら光を放ちながらバットの前に直立した。


 そしてその杖は、今度はアテナの頭めがけて飛んで行く。


 バットがそれに気が付いた時には、杖はアテナの額に衝突していた。


「あいた!……もう!しょうがないでしょ!計算外の連続だったんだから。銃は取り戻せたからいいじゃない!」


 続いて、まるで見えない人がいるかのように動いてアテナの頭をコンコンと叩く杖。


 それに何やら抗弁するアテナ。


 目の前で何が起きているのが解らず首を傾げるバットに気づいたのか、アテナは頭を防御しながらこの状況を説明する。


「ああ、彼はアンジェロ。私の使い魔なの。今ちょっと、私のやり方が大雑把だって怒ってるのよ。……あいた!」


「……ああ、それには僕も賛成だね」


 使い魔というよりはお目付け役だな。


 言いながらお尻をバシバシ叩かれるアテナを見てバットはそんな印象を受けた。


 確かにいくら強力な力があるとはいえ、あんな派手な事をすれば、怒るのも当然だろう。


 バットはアンジェロとかいう杖に同情すると同時に、魔法使いの中でも彼女のやり方が非常識らしい事を認識し、幾分か安心できた気がした。


「それで、なんで僕はここに連れてこられたわけ?」


 杖ともみ合うアテナに、バットはさすがに事情の説明を求めた。


 それにアテナは、バットの言葉を理由にアンジェロをなだめ、どうにか杖の動きを止め、咳払いを一つしてからバットに説明を始めた。


「改めて紹介するわね。私は銀河魔法協会の魔術師アテナ。そしてこっちが使い魔のアンジェロ」


 アテナがそう言うと、アンジェロはお辞儀をするように折れ曲がった。


 どういう仕組みか知らないが何とも奇妙である。


 そして、「銀河魔法協会」についてもバットは聞いたことがあった。


 曰く、世界を影から支配する魔法使いの組織。


 曰く、あの歴史的事件に裏で関わっていた。


 曰く、世の不思議な事件は、魔法協会の仕業……。


 メディアに登場する都市伝説には、おおよそ魔法協会がかかわっている、と言うのが定番だった。


「銀河魔法協会?じゃあ、目的は魔道帝国の復活のため、とか?」


 そんな三流メディアの都市伝説が本当にあったのだろうか?


 だが、彼女はそれを笑って否定する。


「逆よ。私たちの仕事は、魔道帝国時代に造られた魔法の武器を適切に管理したり、魔道帝国の復活をもくろむ魔法使いの目論見を阻止するのが任務なの。今回はその銃を回収して、しかるべき人に渡すのが私の任務」


「この銃を?」


「そう、何かの間違いで兵器に転用されようとしているって情報があって。私がここに駐留している艦隊が駐留していた浮きドックから盗んできたの。……でも、惑星の外に出ようとしたところを妨害されちゃって。この星に不時着で逆戻りしてきたってわけ」


 そう言うと彼女は川向うの湖を指さした。


 そこには煙を吹いてどうにか巨大な湖に浮かぶ輸送船が見える。


 どうやら何とか不時着して、あそこにたどりついたらしい。


 船体にはあちこち穴が開き、煙が上がるのが見える。


 なるほど、タイロン船長が相当怖い思いをしたのだろう。


 こうなると、あれだけこっちに仕事を振ろうとしたのかもなんとなく理解できる。


「でも……この銃がそんなに危険なの?」


 そして、よくわからないのはこの銃だ。


 バットはそう言うと何気なく銃をホルスターから抜いた。


 銃はなぜか何事もなかったようにホルスターから抜け、手に吸い付くような感覚すらある。


 アテナはそれにやっぱり、といった顔をして、そして頷いた。


「それは「魔導石」でできた銃なのよ」


「魔導石?」


 何から何までわからない。


 さらに首を傾げるバットに、アテナは自分の額のサークレットを指さして見せた。


「私のサークレットにはめ込まれているのがその「魔導石」。人間の精神に感応して反応を起こす石でね。私たちはこの石に自分のイメージをぶつけることで、物理法則を捻じ曲げ「魔法」を発動しているの。……もっとも、これができるのは数万人に一人くらいだけどね」


 言いながら、彼女は、指先から火や電撃を発生させて見せる。


 多分ここまでに至るには相当の素養と修行が必要なのだろうが、それにしても不思議なものである。


 その威力はさっきから嫌というほど見せられてきた。


 それが彼女の額の小さな石で起こすことができるというのである。


「じゃぁ、この銃は……?」


「そうなの。さっきはだいぶ手加減して「暴発した」けど。本来は要塞砲の動力源として造られたものらしいわ。条件が整えば星一つ破壊することも可能なのよ」


「……星を?」


 なんとも途方もない話だ。


 バットは手元の銃を眺めまわし、自分の手にそんな恐ろしい物が握られているとはとても信じられなかった。


「それと、その銃にはもう一つあってね。どうも魔術上の副次効果らしいんだけど。その銃の銃撃は魔法のバリアでは防げないの。さっきの暴発を私が防げなかったのもそのせい。伝説では、魔道皇帝オーディンの暗殺にこの銃が使われたらしいわ。……で、ついたあだ名が「ウィザードスマッシャー」。私たち魔法使いの天敵みたいな銃なのよ」


 とうとう、歴史上の人物が出て来て、バットはいよいよこの銃を持つ恐ろしさが解ってきた気がした。


 いわば歴史的遺物と戦略兵器が合わさったようなものだ。


 そんなもの普通の人間が持っていいものではないし、あちこちの組織に狙われて当然である。


 バットはアテナの言葉に銃を持つ手を放そうとしたが、今度は指が銃から離れない。


 振っても叩いても離れない銃に、バットはいよいよ恐ろしくなった。


「……なんで手から離れないの?」


 もう泣きそうになりながら、アテナに訴えるバット。


 それにアテナは、うーん、と腕を組んで首を捻り、もう他に回答しようがないという様子でそれに答えた。


「……多分、選ばれたのよ」


「選ばれた?」


「繰り返しになるけど、魔導石は精神に反応するの。そして古い魔導石は、歴代の持ち主の精神パターンを吸い上げ。意志を持つようになるの。このアンジェロみたいにね」


 アテナの言葉に反応し、得意げにくるくる回るアンジェロ。


 なるほど、この杖にもどこかしらにその石が使われているらしい。


「……で、理由はわからないけど、あなたはその銃に選ばれたの。私でも解けなかったアタッシュケースの封印が解けたのもおそらくそのせい。多分手放そうとしているのに抵抗しているから。貴方が主として自覚を持てば、その銃は抵抗しないわ」


 そう言われ、バットはホルスターに銃を収めてみる。


 すると銃は指から離れ、今度はガンベルトに吸い付いた。


 多分自分から離れないようにしているのだろう。


 バットはそれに途方に暮れた。


「……じゃぁ、僕はどうすれば?」


「私としては、まずはその銃をシュクの魔法協会に持っていくのが任務だから、貴方に銃ごとついてきてもらうしかないわ。持ち主の変更ができるのかは偉い導師様達に聞いてみないとなんとも言えないわね」


「そんな……。」


 あまりにも急で強引な展開だ。


 こちらにだって、生活も会社もある。 


 こんな拉致同然で他の星に連れていかれてはたまったものではなかった。


「……それに、この銃がここまで持ち主を選びだそうとするという事は、皇帝オーディンの復活も兆しがあるのかもしれない。貴方には協力してもらわないと、また銀河で大きな戦争が起きてしまうかもしれないの。お願い!突然の話で大変だろうけど協力して」


 まるで映画のような話だ。


 バットはどんどんスケールが大きくなっていく状況に実感が持てないという気持ち八割と、そんな大それた事に自分がかかわっていいのかという気持ち二割という状況だったが、アテナのような美人に手を握られ、見つめられては嫌という言葉も出せなくなっていた。


「……とりあえず、会社に連絡取らせてくれない?」


 照れながらどうにかそう言うバットにアテナはにこやかに頷く。


 こうしてみると、ただの溌溂とした少女なのだから不思議だ。


 そして彼女は、バットの手を引いて、歩き出した。


「さぁ行きましょう!あの船に乗って、首都星シュクへ!」


 そしてアテナは湖の宇宙船を指さし、高らかに声を上げる。


 そして目の前に見えた光景にバットは向こうの光景にこう言わざるを得なかった。


「いや、あの船じゃ無理と思うよ」


「え?」


 二人が川向うの湖で見たもの。


 それは、二人が話している間に力尽きたのか、徐々に湖に沈んでいくタイロン船長の船の姿だった。


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