手に負えない仕事
宇宙港湾局の建物には、独立商人たちに仕事を仲介する斡旋所があり、個々人で相談するカフェも併設されている。
商船で宇宙を旅する船乗りたちはここで仕事を探すのが通常であった。
そんな中、バットは「タカトビ丸」船長タイロンとテーブルで向かい合っていた。
「そ、そうか……親父さんは一年前に……」
タイロンは、何やらアタッシュケースを抱えてやたら周囲を気にしている。
どうもずいぶん気になることがあるような様子だが、父の死を告げると彼は、心底残念な様子だった。
何か父に頼みたい話でもあったのだろうか。
バットは、コーヒーも飲まずに狼狽するタイロンの様子を慎重に観察する。
「父とは知り合いだったんですか?」
「まぁ、知り合いってほどでもねぇけど。同じ港を使ってるんだ、顔は知ってたさ。
「ジュピター13」のシンド―・コージを知らない奴はこの業界じゃモグリってもんさ。」
なんとも有名なんだな。
バットは改めて聞く父の評判に、驚かされた。
考えてみれば、この1年、イワンや郭の紹介で受ける定期的な仕事がほぼすべてだったので、こうやって船乗りの先輩たちと話す機会はあまりなかった。
自分がまだ若いこともあって、本格的な商談というのはそんなになっていなかったことに気づいたバットは、同時に、自分の会社がずいぶん有名なことに初めて気づかされたような気がする。
イワンの昔語りもあながち誇張じゃないんだな、とバットは何か誇らしさすら感じた。
「……それで、頼みたいことというのは?」
この際、仕事がもらえるなら、それに越したことはない。
少しいい気になった。バットはある種の期待を込めてタイロンに尋ねた。
タイロンはそれに、改めて周囲を見回しながらアタッシュケースを差し出す。
「……この荷物と、人間を一人。シュクに届けてほしい」
「首都星シュクに?」
「俺の手にはもう負えねぇ。頼むよ!報酬は全部やるから」
何やら小声で必死に頼み込むタイロンにバットは、何か雲行きが怪しくなってきたことを感じた。
首都星シュクといえば、銀河連邦議会のある政治の中心地。
最近は政情も安定してきて物流も盛ん、バットもつい先ほどシュクからこちらに来た星で、なじみもある。
そこにアタッシュケース一つと人間一人が手に負えないとはどういうことか?
バットは、警戒しながらアタッシュケースを眺めまわした。
「……一体これ、何が入っているんですか?」
バットが恐る恐るアタッシュケースに触れる。
すると、鞄は鍵が壊れていたのか、ひとりでに空いた。
それにバットも、そしてタイロンも目を丸くして驚く。
「あれ?ええとすみません。鍵、空いてたんですか?」
さすがに中身を見るのは不味いと思ったが、思わず中に目が行ってしまう。
実はタイロンは首を大きく横に振っていたのだが、バットはそれに気づかないまま「中身」に目を取られてしまった。
それはガンベルトと、それに収められた一丁の銃だった。
このご時世、護身用のブラスター拳銃を持つのはたしなみのようなものだが、この銃はそれより少し大げさで、そして静かに光を放っている。
「銃?」
何か、手に取れと指示された気がして、バットはそれを手に取った。
青い石を銃の形に掘り出したようなその銃は、バットが手に触れると、ますます鈍い光を放つ。
それはあのゲートをくぐった時と同じような何か懐かしい匂いのする、そして何かを思い出しそうになる感覚だった。
次の瞬間、銃そのものが何かに引っ張られるようにバットの腰に吸い付くように張り付きだし、バットは我に返った。
慌てるバットの目の前でするするとガンベルトが蛇のように腰に巻きつく。
「ちょ!ちょっと!」
この不気味な挙動にバットは慌ててベルトに手をかけたがベルトはなぜか外れない。
その様子にはタイロンは驚きながらも、感心して頷いていた。
「流石だな。俺たちじゃアタッシュケースすら開かなかったってのに。」
「いや、これは勝手に……」
不可思議な現象に、慌てたバットは、なんとかベルトを外そうともがいたが、やはりベルトは外れない、困惑するバットにタイロンは書類をバットに押し付け、そして血走った目でバットを睨みつけていた。
「とぼけるんじゃねぇよ!お前らが魔法使いの仕事に手を出してるのは、俺たち運び屋の中じゃ有名な話なんだ!」
「え?」
「俺は信じちゃいなかったがよ。先日見たんだ!宇宙を小娘が飛んで戦うのを!……あれは間違いねぇ!あの小娘は魔法使いだったんだ!」
太った男が恐怖に震えて話す姿とその話の内容に、バットは今度こそ混乱した。
魔法使いがいた?
うちの会社は運び屋の中で有名?
イワンから聞かされた話と齟齬はないが、なにかイメージがひどく違う。
親父は一体何をやってたんだ?
もうそれしか出てこない。
どうやら、自分が全てを知っていると勘違いしているらしいタイロンにバットはなんと言って良いかわからず、ただ目を丸くしたまま言葉を失った。
タイロンはそれに構わず、そそくさとコーヒーを飲み干し、立ち去る準備を始める。
「ばあちゃんからきつく言われてるんだ!「魔法使いの仕事には関わるな」ってな!もうこれ以上この件に関わりたくねぇ。もう任したからな!俺は無関係だ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
立ち去ろうとするタイロンを慌てて追いかけるバット。
このまま内容も聞かずに仕事を押し付けられてはたまらない。
だが、そそくさと立ち去ろうとするタイロンの歩みは、入り口に現れたサングラスと黒いスーツの男たちによって阻まれた。
ぞろぞろとカフェの中に入ってきた彼らは、作業服の人間だらけのカフェの中で明らかな違和感を漂わせていた。
的確に手分けして出入口を塞ぎ、行く手を塞ぐ彼らは物腰と体格から、訓練された軍人かなにかであることがうかがえる。
そんな人間に行く手を阻まれ、一斉に睨みつけられたタイロンの対応は素早かった。
「あいつです!あいつが持ってます!俺は無関係!」
「え!?」
突然タイロンに指を指され、男たちが一斉にこちらを向きブラスターを懐から抜き放つ。
降って湧いたような状況にバットは思わず両手を上げた。
が、次の瞬間、突然目の前で大爆音とともに、カフェの壁が吹き飛んだ。
狙いすましたかのように銃を構えていた男たちだけが一斉に吹き飛ばされ、カフェ内に爆風と壁とガラスの破片が飛び散る。
それは、明らかに自然ではありえない現象だった。
「危機一髪だったわね。間に合ってよかったわ。」
そして、舞い上がる埃と煙の中から声が聞こえる。
唖然となったままのバットとタイロンが見たのは、そこに現れた一人の少女の姿だった。
頭に石のはめ込まれたサークレットを着け、ローブをまとった少女。
それはなぜかバットにはとても懐かしいもののように思えた。




