扱いにくい船
「じゃあ、ここのシステムを乗っ取るための時間を稼いでいたの?」
数分後、無事エレベーターで港に戻ってこられたバットは、その光景に驚愕することになっていた。
港湾システムは抑えられ、反乱を起こしたドローンたちに海賊が制圧されている。
いくらか抵抗はあったようだが、どうやらそれはエイトが何とかしたようだった。
彼らは現在、ケガ人ともども重力ブロックにアテナたちと入れ替わるように押し込められている。
状況の説明を行った郭は、目を丸くするバットの前で笑顔で頷く。
「ええ、どうせお金もないのでシステムのアップデートもろくにしていないだろうと思っていたら案の定でしたわ。さすがに時間はかかりましたけど。」
「何で最初に言ってくれないの!?」
「ですから、「半日はかかる」と……」
「そういう意味だったの?」
あきれてものが言えないバットの後ろで、イワンが高らかに笑う。
彼はバットの肩をバンバン叩くとどこからかくすねて来たチョコバーをバットの宇宙服のポケットにねじ込んだ。
「まぁ、若旦那の交渉がうまくいけばそれに越したことはなかったんじゃがな。案の定こっちにちょっかいかけて来たから致し方なく、というところじゃ。この際結果オーライというところじゃろう」
「知らない顔でもないし、こういう手段は使いたくありませんでしたのにねぇ」
「……よく言うよ」
毎度のごとく白々しい物言いの郭に、バットは呆れた顔でチョコバーの封を切った。
多分、こういう反応することを織り込み済みで、あえて飛び込んでみせたのだろう。
これでは恨みを買っても仕方がない。
バットは、もろもろの危機から救われた安心感と、自分がどんどん普通から離れていくことに複雑な感情を抱かずにはいられなかった。
「もうこうなったら、とことんやるしかないな。とにかく、ケガ人は手当てして、補給したら。早いとこ、ここから逃げ出そう」
こうなりゃヤケだ。とバットは思いつつ方針を示した。それに部下たちは大きく頷く。
もともとほとんど人に頼らないシステムなので、一度制圧してしまえば、積み込み作業も楽なものである。
「ひとまず食料は、十分に補給できそうですわ、冷凍ものですが上質な肉もありま
すのよ」
「この間に、レールガンも丸ごと変えちまうか。なに細かい作業は航行中にやればええ」
「追いかけて、逆襲されるのも怖いですから、弾薬類は積めるだけ積んでいきましょうか。幸い貨物スペースはだいぶありますし」
「……どっちが海賊だかわかりゃしないな」
港の倉庫システムを覗きながら嬉々として、物資の略奪の相談を始める二人にいよいよ呆れるバット。
だがそれに、先ほどまでケガ人の治療をしていたアテナが、声をかけて来た。
「いいじゃない。向こうもこっちを騙したつもりだったんだからお互い様よ。そもそも、法律上はこの人たち犯罪者なんだから。退治したってことでいいんじゃない?」
「僕たちもお尋ね者なんだけどなぁ……。」
あっけらかんという彼女にやはりどこか引っかかるバット。
だがそんな一同の会話は港に響いた大きな音で中断された。
それは、重力ブロックに閉じ込められているはずのイブラヒムの声だった。
「そこまでだお前ら!人の基地に上がり込んで好き放題しやがって!」
音のした方を見ると、離れて係留されていた「第32龍神丸」が起動している。
それにイワンと郭がさすがに目を丸くしていた。
「いかん!どこからかの通路からこっちに上がってきおったか」
「たしかに、あの船はシステム的に独立していますから。制圧できていませんわね。盲点でしたわ。」
おそらく我々の知らない非常用の通路でもあるのか、外の宇宙空間を大回りしてきたのだろう。
こちらも人数が居ないから、隙をついてあの船に乗り込むのは容易だったに違いない。
そして、イブラヒムの声が再び響いた。
「お前らの事は広域電波で通報させてもらった!遅かれ早かれここに追っ手が来る!逃げられないように、この船もここでバラバラにしてやる!」
そして、「第32龍神丸」の砲塔がこちらを向く。
一同はそれに、言葉を失った。
次の瞬間、レールガンが、「ジュピター13」に向かって発射される。
それは、狭い港の中では共倒れになりかねない危険な行為だった。
カン!
甲高い金属音を響かせて、ブリッジを直撃するはずだった砲弾ははじかれて、港の天井に穴を開けた。
その瞬間、バットの目には、確かに、バリアでエネルギーが反発する際に発生する光が見えていた。
「え?誰か乗ってる?」
それは、バリアシステムが瞬間的に起動していたことを指している。
いや、この距離のレールガンを弾き飛ばすのは、並大抵の出力では無理のはずだ。
見回すと、エイトも、イワンも、郭も、アテナもここにいる。
状況が理解できないバットの目の前で、今度は「ジュピター13」がゆっくりと動き出した。
そして、船体下部の荷電粒子砲に徐々にエネルギーが集まるのが見える
「いかん!物陰に隠れろ!」
ただ一人、そう言ったのはイワンだった。
その言葉に、全員慌てて、近くのクレーン制御室に駆け込む。
全員が部屋に入った次の瞬間。
「ジュピター13」は荷電粒子砲を発射していた。
衝撃で、クレーン室のガラスにひびが入り、港内に破片が飛び交う。
どうやら一部に穴が開いたのか、空気が漏れていくのが分かる。
一同はそれに慌てて宇宙服のバイザーを閉じ、港の惨劇が収まるのを待たなければならなかった。
「……あー、やっちまいおった。クレーンが壊れてなきゃええがのう。」
なんとか破片からは無事な部屋の中でそうぼやくイワン。
バットはどうやら事情を知っているらしいイワンに説明を求めた。
「今の何?勝手に動いたけど?自動運転?それとも誰か乗ってた?」
「今、ものすごい魔力を感じたわ。どうなってるの?」
バットのみならずアテナも驚いていたようだった。
それに、イワンはやれやれ、と言った顔でそれに答えた。
「船の防御本能じゃよ。まぁ、簡単に言うと怒らせた、というところかな?」
「防御本能?」
「ああ、あの船のエンジンには魔導石が使われておる。それが何年も使い込まれとるから独特の「意志」とも言うべきものを持っておってな。特に輸送船として生き残ることが仕事じゃったから、防衛本能は桁外れに強くなっとる。おかげでやる気無い時はテコでも動かん代わりに、今みたいな時は馬鹿げた出力で勝手に動くんじゃよ。
エーテル機関の船が古くなると扱いにくいと言われる所以じゃ」
「……そんなことが……。」
「まぁ、若旦那が船長やってもらっとる事情もそこにある。おかげでみんなは団結し、船もいう事をきいておる。今回みたいに助けられることもあるしな!」
そう言って、イワンは力いっぱいバットの背中を叩いた。
どうやら自信を持て、と励まされたような気がして、バットは少し気恥ずかしくなった。
結局、「ジュピター13」はビーム砲の一部が反動で壊れた以外無傷だった。
が、「第32龍神丸」は大破、港の壁にも穴が開き、補給作業にずいぶんと支障をきたすことになった。




