閉じられた出口
宇宙港にいる海賊たちは苛立っていた。
ここ数時間、リーダーであるイブラヒムとの連絡がつかず、脅して下船をさせるはずの「ジュピター13」の乗員は一向に出てくる様子がない。
そして何度目かの通信を入れたが、毎度出てくる髭の老人の言う事は、録画動画かと思えるほど同じであった。
『すまんのう。こっちはなかなか話がまとまらんでな。もうちょっと待ってくれんか』
のんびりコーヒーを飲みながら回答する老人。
かれこれこんなやり取りを三十分おきで3時間ほど繰り返している。
さすがに海賊たちはこれに付き合う気力を持ち合わせてはいなかった。
「いい加減にしろ!あと十秒で出なかったら外壁ぶち破ってお前ら皆殺しだ!」
『そりゃ御免こうむりたいもんじゃのう』
「つべこべ言わずに出てこい!」
『そうは言うてもなぁ。出たくないもんが駄々をこねておってなぁ。ちょっと話し合ってみるからもう少し……』
そこで海賊は通信を切った。
「舐めやがって!中から引きずり出してやる!」
どう考えても時間稼ぎをしている。
これ以上、引き延ばされてはたまらない。
海賊たちは戦闘用ドローンを引き連れて「ジュピター13」の搭乗口に殺到した。
だが、攻撃型ドローンが、ロケット砲を打とうと照準を合わせたその瞬間、搭乗口はまるで待っていたかのように、ゆっくりと開き始めた。
「……?」
そして、海賊たちがそれを覗き込んだその瞬間、風を切るような音と共に何かが搭乗口から飛んでくる。
それによってドローンを破壊されて初めて、それが手斧だったことを海賊たちは認知した。
発射体制だったドローンはそのままバランスを崩し無重力の港を回転しながら飛んで行く。そして他のドローンを巻き込んで誘爆し、港周辺に破片をまき散らした。
装甲宇宙服を着ているとはいえたまらず飛んでくる破片から身を守る海賊たち。
そして振り返ると、搭乗口は何事もなかったように閉じられていた。
「爆薬持ってこい!」
頭に血が上った海賊たちは粘土型火薬の設置を始めた。
二人の人間が搭乗口にとりつき、爆弾を設置しようと扉に張り付く。
そしてその瞬間、また搭乗口の扉が、今度はスッと空いた。
扉の向こうに居たのは、装甲宇宙服で全身を固めた熊のような大男だった。
金属パイプと金属板で急造した盾を持ったその男は、空いた瞬間、爆薬を設置しようとしていた男に躊躇なくパイプを振り下ろし、装甲宇宙服のヘルメットを粉砕した。
そして、へし曲がって使えなくなったパイプを投げ捨てると、今度は隣であっけにとられていたもう一人の男の銃を持つ手を掴み、信じられない握力で銃口をあさっての方向に向けさせた。
他の海賊たちはドローンで反撃しようとしたが。仲間が盾にされており撃てない。
そうこうしているうちに、大男は
「爆薬。ダメ。」
というと、手元の海賊の腕をへし折り、銃を取り上げて、船外に放り出す。
そして男は、また搭乗口を閉めて中に籠ってしまった。
海賊たちはその光景に、ケガ人を回収した後も、誰が扉を壊した後誰が中に入るのかを話し合う羽目になった。
暗がりの中、ドローンの飛ぶ音が聞こえる。
バットは、それに壁に背を向け、目をつぶった。
当たれ、と念じ、力を抜いて、銃の向く方向に手をやり引き金を引く。
すると、数瞬の間をおいて、どこかでドローンの砕け散る音がした。
もうこれで何度目だろう。
バットは、何度かやっているうちに、すっかりこの銃の使い方が解って来た自分に、感心すらしていた。
イブラヒムの館から抜け出して数時間、二人は港ブロックへのエレベーターが見つからないまま、重力ブロックの街の中を、警備ドローンと鬼ごっこをしながら、うろうろしていた。
「参ったなぁ。こうしている間にも船がどうなっているのか判らないのに。」
「さすがに置いていくようなことはしないと思うけど、その分船がどうなっているか心配ね。まぁ、あの人たち慣れているんでしょうけど。」
バットの隣でそういう、アテナも、流石にこんな中では飛んで行くこともできないでいるようだ。
彼女は周囲にドローン気配がないことを確認すると自分の杖を、ふわりと宙に投げた。
「アンジェロ。方位を。」
そう言うと杖は一定方向を指し示し空中でぴたりと止まる。
それは、ジャイロのように、銀河標準面を現しているのだろう。
アテナは、アンジェロと周囲の地形を見比べてうなり声を上げる。
「やっぱり最初のカンの通り行ったエレベーターが正解だったのかも……。どうも、私たちを閉じ込める目的でエレベータを止めているのかもね。」
困り顔のアテナに、バットもなるほど、と頷いた。
それなら、行く先々のエレベーターが止まっているのも納得がいく。
「そう言えば、さっきから人間がまったく出てこないね。どうしよう?」
閉じ込められた上、空気でも抜かれたらたまらないし、もしかしたら船の制圧に向こうが全力を尽くしている可能性があるのだ。
先に船を抑えられたら、いかな魔法使いでもどうにもならない。
そして、焦るバットの耳に奇妙な機械の駆動音が響く。
アテナもそれに気づいたらしく、声を潜めるようにハンドサインを送っている。
そして目をつぶって神経を研ぎ澄ますと。
建物の陰からそっと向こうを覗き込んだ。
そこには、3メートル近い、人型のマシンが何かを探して歩き回っていた。
パワードスーツ。
奴が、こちらを探しているのは、間違いないようだった。




