不利な交渉
下船した二人をタラップで出迎えたのは飛び交う警備用ドローンと、いかにもな出で立ちの海賊と、それらの無数の銃口だった。
その光景にバットは内心イワンの忠告を聞き入れアテナを連れてきたことを正解だと思ったが、顔には出さず、代表者との交渉を要求した。
しばらくの問い合わせと問答の末、二人は要塞の内部に案内された。
中は、鉱山らしい武骨で錆びついた施設の中に、ところどころ岩肌が見える広大な景色が広がっていた。
そしてエレベーターを経て、重力ブロックへ。
そこは岩盤をくりぬいて作られた円筒状の筒の内側に張り付くように作られた小さな町だった。
おそらく鉱山労働者が住んでいたのだろう。
天井にすぐ街があるため圧迫感のある印象を受けるが、惑星の上で暮らしていたバットには実に新鮮な光景に映った。
「すごいな。採掘するためにこんな設備を作っていたんだ。」
「見た感じほとんど自動化されているみたいだけど、それだけに海賊たちが隠れ家にするにはうってつけってわけね。ねぇ?ここには何人くらいいるの?」
社会見学でもしているかのようなバットと、アテナの質問に案内役の海賊は理解できない、と言った顔をして銃口を突き付けた。
「言えるわけねぇだろ!黙って歩け!このガキどもが!」
もっともな話だ。
バットは海賊の言葉に両手を上げて頷いたが、アテナはそれに不服そうにしていた。
「あら?海賊はお客さんをそう言う扱いするの?」
彼女はそう言うと頬を膨らます。
どっちが無礼なんだか。
あれだけの力を持っていると、なんとも心強いが、緊張感が無い。
変にお互い怒らせなきゃいいけど。
などと思いつつ、やはり客人としてこちらをもてなす気がなさそうな海賊の態度も気にかかった。
ちゃんとした交渉になればいいけど。
バットは、やはり今かなり不利な状況にある事を自覚せざるを得なかった。
案内されたのは、おそらく昔は集会所か役所か何かであったろう比較的大きな建物だった。
そこの執務室で待ち受けていたのは、先ほどの通信で顔を見せた大柄で強面の男だった。
彼は机に脚を投げ出し、それこそいかにもと言った姿勢でこちらを出迎えた。
それにバットは、背後で銃を突きつける二人を尻目に一先ず笑顔で対峙する。
「「ジュピター13」の船長。シンド―・バットです。この度は入港を許可していただき感謝します。」
横柄な態度の男だったが、彼の名前には聞き覚えがあるようだった。
「シンドー?ああ?お前コージの?」
「シンドー・コージは僕の父です。」
その辺で男は大体の事情を察したようだった。
彼は目の前のソファーに座るよう促すと、ようやく机から足を降ろした。
「イブラヒムだ。イワンのジジイから聞いてるかもしれんが、この宙域じゃ「隕石島のイブラヒム」で通ってる。お前の親父とは、助けられたこともあるし。敵だったこともある。で?そちらの連れは?」
そしてイブラヒムの興味は、アテナに向いた。
考えてみれば当然の事だ。
この殺伐とした状況に、杖を持ってついてきた少女は、あまりにも場違いすぎた。
一体どう答えようかと、戸惑うバット。
だがアテナはそれに胸を張って答えた。
「アテナ。魔術士アテナよ。協会の命で現在旅をしているの。船長との交渉に応じてもらいたいわ。」
「……ほう?協会の?」
どうやら魔法使いである、ということは一定の権威として通用するらしい。
堂々と名乗りを上げるアテナもそうだが、海賊たちの空気が変わるのをバットは感じていた。
「こんなむさ苦しい所にわざわざおいでになるとは、よほど術士様はお困りのことがおありのようですな?見たところずいぶんお若いが、単独でのお仕事は初めてですかな?」
「ええ、今回が初めて。だから失敗したくないの。分かるでしょ?」
嫌に丁寧に話すイブラヒムにアテナはすまして答えた。
どうも、アテナを値踏みしているらしい。
結果はどうかは分らなかったが、イブラヒムは、ふん、と面白くもなさそうに鼻を鳴らすと、改めてバットを見た。
「で、交渉ってのは?」
どうやら話は聞いてやる。という事らしい。
バットはそれになんとか笑顔を維持したままそれに答えた。
「今我々は物資と食料が足らなくて困っています。手持ちのお金はありますので、その分だけでも分けてもらいたいのです。」
「取引か……。いい度胸してるな、坊や。」
どうも、感心したというよりは呆れた、といった感じのイブラヒム。
彼は、つまらなさそうに立ち上がり、背後にポットからどでかいマグカップにコーヒーを注いだ。
カップは自分のものだけ。
こちらに提供する気は全く無いようだった。
「坊やは知らんかもしれんが、お前の親父にゃ恨みの方が多い。術士様の頼みでも、施しをやる、義理も、余裕もない。」
「施しじゃなくて取引なら……。」
「同じだ。お前らを生かして返せないほど、こっちの恨みは深い。あんたら本当にどの面下げて来たんだ?その度胸だけは褒めてやりたいな。」
どうもここも出禁の港だったようだ。
バットは、取りつく島もない状況に二の句が継げなくなっていた。
なるほど、イワンが下船を反対するわけである。
バットアは忠告を無視した自分の愚かさを内心後悔しつつも、何とか口を開く
「でも。それではこちらも受けた依頼が果たせない。父には助けられたこともあるんだろう?なら今回は力を貸してほしいんだ。この恩は僕は忘れないよ。」
バットの言葉をイブラヒムは、半笑いで聞いていた。
彼は今度は椅子に腰かけ、コーヒを飲み干すと、いじわるそうな顔でそれに答えた。
「わかった。じゃぁ取引しようじゃないか。命は取らん。食料はやろう。」
「ありがとうございます!」
ぱっと明るい顔でそれに答えるバット、だが、イブラヒムはそれにかぶせるように条件を通告した。
「ただし、船は置いていきな。そいつが条件だ。」
それは、バットにとっては到底飲むことのできない条件だった。




