暗礁宙域の会合
軌道修正を行って一日。
反応は向こうからやって来た。
それに最初に気が付いたのは、レーダーの前に座っていたアテナだった。
「……来たわ。こちらに近づいてくる。」
船長席で眠りこけていたバットはその声に慌てて飛び起きた。
そしてレーダーをのぞき込むが、周囲は隕石らしき反応が多く、何が何だかわからない。
機関士席のイワンも同様のようだった。
「さて、どれがどれやらわからぬが、術士様が察知したという事は、まぁ間違いなかろう。もともとこういう所での不意打ちが奴らの得意技じゃ。」
「おそらく、無光慣性航行で隕石に紛れ、こちらの様子を伺っていますわね。熱探知はいかがでしょう?」
郭に言われ、バットは画面を熱探知センサーに切り替えた。
周囲の熱分布が表示されるが、バットの目にはどれがどれだか見分けがつかなかった。
それに、アテナは迷わず一点を指さす。
「これよ。」
見ると、確かに隕石と材質が違うのか、わずかに熱分布が違うものがあった。
「やはりエンジンを切っていますわね。外装に断熱素材でも使っているのかも。」
郭はその分析結果に、アテナの能力を加味して、やはりそれが少なくとも人工物だと断定した。
バットはそれに改めて、相手が一筋縄ではいかない相手だと悟った。
こちらが気づかなければ、不意打ちをかけ、こちらを拿捕するか沈める気なのだろう。
バットは、それに素直に年長者にアドバイスを求めた。
「どうしたらいい?」
「素知らぬ顔でレーザー通信で挨拶しましょう。不意打ちができないと判断したら勝手に出てきますわ。」
なるほど。
バットは郭の言葉に頷いた。
確かに、こちらが気づいている事と、敵意が無い事を知らせるにはそれが一番かもしれない。
バットは直ちに、そちらに向け、レーザー通信を送った。
「ワレ「ジュピター13」、緊急ニツキ、衛星775ニテ補給ヲ希望ス」
それは郭の指示に従い、この先に基地がある事を知っている旨も含んだ通信だった。
どうやらその点のスパイスも効いたらしい。
しばしの沈黙ののち、船はエンジンを起動し、こちらに近づいてきた。
望遠カメラでようやく見えるようになったその船体は、何らかの形で船体表面に隕石と同じ素材を張り付けて擬態した船だった。
外見こそ動く隕石に見えなくもないが、そこかしこに武装した砲が見え隠れしている。
「おそらく、商船を改造したものですわね。」
とは、ざっと船体をみた郭の見解だった。
やがて、通信のタイムラグが起きにくくなる距離まで近づいたところで、今度は向こうからレーザー通信が開いた。
通信を開くとそこには、いかにもといった強面の髭面の男が現れた。
『こちら「第32龍神丸」「ジュピター13」まだ生きてやがったか。こっちの擬態を見破るとは、船長は変わったと聞いていたが、腕は変わらんらしいな』
どうやら、この船の事は良く知っているらしい。
それは、イワンも同じのようだった。
彼は、カメラに映った顔に反応すると、自分の顔をカメラに覗かせ、バットの代わりに応答する。
「すまんな。またいろいろあってまた追われる身じゃ。悪いがいくらか補給をさせてもらいたい」
イワンの言葉に男は高らかに笑った。そしてこちらを値踏みするように見回し、それに返答する。
『宇宙船乗りは持ちつ持たれつだ。話は聞こう。……だが、こちらも無料で何でもやれるほどの余裕はねぇぜ?こっちの港につく前に、そこの坊やにどんなカード持たせるか考えておきな。いい話になることを期待してるぜ』
そう言うと、通信は切れた。
どうやら、自分はまともな交渉相手とはみなしてもらえなかったようだ。
バットは、それに流石に憮然となった。
「まぁ、ああいう連中じゃ。極力自分を見せて、弱みを見せたらとことんやって来る。若旦那も向こうのペースに乗せられんようにな。」
イワンはそんなバットの表情に気づいたのか、優しく肩を叩いてそう言う。
確かに、若いだけのお飾り船長と思われては、まともに交渉できそうもない。
さて、どうするか。
バットは、腕組みをしてしばし考え込んだ。
数時間後、「第32龍神丸」の誘導もあって「ジュピター13」は無事に衛星775の基地の港に入ることができた。
巨大な隕石をくりぬいたその基地は一見外から見れば確かに普通の隕石にしか見えない。
元々鉱山だったという話だが、やはりそこかしこに砲台らしきものも見え、一種の要塞のような所だった。
船はくりぬかれたトンネルのような港に向かい、桟橋に接続する。
無重力の港の中奥には、鉱山だったころの名残か、貨物用のエリアが大きな洞窟のように広がり、様々な物資のコンテナやクレーン。そして改造したドックらしき設備に、先行した「第32龍神丸」と拾い集めた船の残骸が置かれているのが見えた。
「船体固定。係留作業終了」
「こちらも、なんとか基地のメインシステムにアクセスできましたわ」
エイトと、郭が報告を行う。
それに、バットは頷くと腕時計で現在時刻を確認した。
「郭さん。補給ができるまでどれくらいかかる?」
「……そうですわね。相手次第ですけど、半日もあれば」
やはり、時間のロスはどうにもならない。
バットは、自前のパソコンの画面を覗き込みながらそう言う郭に急いで話をまとめなければならない事を確認すると、立ち上がり銃を手に取った。
「わかった。僕が海賊との交渉をしてくるよ。みんなは船をお願い」
そう言って下船の準備をするバットだったが、一同はその言葉に驚いたように、バットを見た。
「危険じゃ。相手は人殺しもいとわん連中じゃ。交渉もまともにできるとは思えん」
「なんだかんだと大金を吹っ掛けられるのがオチですわ。ここは通信で交渉しながら、のらりくらりと時間を稼いだ方がよろしいかと」
イワンと郭が口々に反対する。
だがバットはそれに笑って首を振った。
「それじゃ、ぐずぐずしているうちに追っ手が来ちゃうよ。みんなには補給と修理に専念してもらいたいし、舐められっぱなしなのも癪だしね。直接会うことでできる話もあると思うし」
意地を見せたいバットの言葉に、一同は複雑な顔を見合わせた。
そして、ため息交じりに、イワンが口を開く。
「なら、せめて術士様を連れて行きなされ。何かあったら、助けてもらえばええじゃろ」
流石にお客さんは、とバットは思ったが、一同がそれに納得したような顔をしたのでバットは複雑な顔でアテナを見た。
「いいわね。船の中で暇つぶししていられないし、一緒に基地の中を見てきましょうよ」
むしろ嬉しそうにそれにレーダー席から飛び出してくる彼女に、バットは苦笑して同行をお願いした。




