不本意な寄り道
「ジュピター13」は、「ゲート」を超え次の星系にたどり着いていた。
ゲートを通過し、一同はブリッジで立体航路図を悩ましげに眺めていた。
郭が、航路図に予定航路を映し出し、現状を説明し始める。
「我々は現在シキ星系に到着したところです。本来なら、追撃の可能性も考慮して、最短の航路でラヤノ星系行きのゲートに向かう所ですが……」
「食べ物も、資材もない。」
バットの言葉に郭は頷き他のメンバーはため息を漏らした。
「現状、水と食料は船内プラントのものを使わざるをえません。収穫量も当てになりませんし、カロリー上はギリギリですわ。水の循環システムが健在なのが幸いですが……状況は、ほぼ遭難者のそれですわね」
郭の言葉に、昨日大量の炭化したマッシュポテトを作り上げたアテナが気まずそうに顔を背ける。
それを横目に、イワンが船体の被害状況を図式化した図を出して見せた。
「資材に関しては、穴はいくらか塞いだが流石に無いものはどうしようもない。特に急に動かしてぶっ壊れちまった兵装は部品が無きゃ話にならんわい。追っ手に襲われたら、ほとんど素手で対応せにゃならん。」
そうならないのが一番だが、期待できる状況ではないだろう。
バットはイワンの言葉に、腕を組みうなり声を上げた。
「ひとまず。元々買い出しする予定だったから、現金はあるけど……どこか近くの星に立ち寄るわけにはいかないの?」
そして、すがりつくように郭に問うバット。
だが、郭は難しい顔で首を横に振った。
「現状、怪しげとはいえ追っ手が銀河連邦艦隊である以上、我々がつく前に手配書がいきわたっている可能性がありますわ。最悪、入港したとたん取り押さえられる恐れも。」
「よしんば寄港できたとしても、補給しとる間に居場所が通報されて追いつかれる可能性もある。ここから有人星は遠いのもあるが、リスクも大きい。」
郭とイワンのいう事ももっともである。
いまだ受容しきれていないが、自分たちはお尋ね者になってしまっているのだ。
迂闊な行動はとてもできない。
一同は、再度悩ましげに、航路図を見つめた。
「なんとか次のゲートにたどり着いても、その先は、銀河最大級の難所が待っている。何の準備もしないわけにも……。」
そこまで言ったところで、腹の鳴る大きな音が聞こえる。
それは、無表情なまま空腹を我慢しているらしいエイトのものだった。
「腹が減る。力出ない」
あまりにも当然な言葉に、一同は天井を仰いだ。
やせ我慢すれば危険が増す。それは判り切ったことだった。
かといって今は追われる身、捕まってしまってはどうにもならない。
重い沈黙を破ったのは郭だった。
彼女は
「できればこの手は避けたかったのですが……」
と前置きした上で、航路図にいくつかのポイントを映し出す。
「このサキ星系は広大なアステロイドベルト帯が広がる星系です。ここには鉱山衛星がいくつもあって、つい最近まで連邦宇宙軍に抵抗していた反連邦ゲリラの根城になっていましたの。組織的な抵抗はもうありませんが、未だに海賊行為を行う小規模な武装組織がこの辺りにありますわ」
「……まさか、宇宙海賊の基地で補給を?」
一体どこでそんな情報を聞いてきたのかという驚きもあるが、発想の仕方も驚きである。
驚くバットに、郭はその通り、と改めて昔の資料らしいものを出してきた。
「以前立ち寄ったことがありますの。表向きは使われなくなった鉱山衛星ですが、実態は宇宙海賊の基地ですわ。ここなら食料も、武器もある程度ストックがあるはず。基地機能はほとんど自動化されていて、人間も最低限しかおりませんわ」
それは、予定航路からやや外れたアステロイドベルトの中にある、隕石をくりぬいて作った基地だった。
おそらく、使わなくなった鉱山に武器や船をため込んだのだろう。
こんな物騒な所にいったい何の用事で行ったのかとも思ったが、確かにここなら欲しいものはあるようだ。
イワンもそれに見覚えがあったのだろう。
彼は髭を撫でながら、仕方ない、といった顔で頷く。
「確かに、お互いお尋ね者じゃから。普通に買い物するよりは他所に漏れるリスクは低いか。航路上も少しの寄り道で済むし」
「やっぱりそれしかないか」
イワノフの言葉に、バットは納得せざるをえ得なかった。
多少どころでないリスクだが、この際不本意ながら同類の懐に飛び込むのが最も手っ取り早い。
バットは、どうやらそれしかない、という所で、依頼者あるアテナに確認をとった。
「少し遠回りになるけどアテナはそれでいい?」
無重力のブリッジで逆さのまま漂っていた彼女は、それに笑顔で頷く。
「大丈夫よ。私の仕事に期限はないし。我慢しながらの旅も楽しくないもんね。デザートとかもあればいいんだけど」
魔法による強さなのか、どこまでも楽し気な彼女がこの際は頼もしい。
バットはそれに、笑って頷いた。
「よし!まずはその衛星に立ち寄ろう!針路修正、お願いします」
バットの指示に元気に返事すると、三人の船員は一斉に自分の仕事に取り掛かった。
さて、あとは海賊と交渉がちゃんとできるか、だな。
これはさすがに自分の仕事だ。
バットは、海賊との交渉をどうするか、到着までに考えなければ、と様々思案を巡らした。




