自慢のプラント
「すごい!なにこれ!」
バットが船内プラント室の扉を開けると、興味本位でついてきたアテナが驚きの声を上げた。
部屋の中は、所狭しと生えた植物で埋め尽くされており、トマトやカボチャなどの野菜が並んでいる。床までツタが覆いつくすその光景は到底宇宙船の中とは思えなかった。
思えば、こんなに彼女を驚かせるのは初めてかもしれない。
バットは目を輝かせて部屋の中をのぞき込むアテナを見て、照れ臭そうに頬を掻いた。
「この部屋は、父から引き継いで以来、僕の担当でね。一応僕が管理しているんだけど。少し目を離すとこの通りさ。元は水耕プラントだったみたいだけど、だれがいつ植えたかわからないいろんな野菜が生え放題だよ。」
言いながら、バットは鎌で近くの蔦を切り払い、中に進んだ。そして突き当たりに生えたトマトをもいでアテナに手渡す。
勧められてみずみずしいトマトを一口かじったアテナはその味にまた驚いた。
「おいしい!これ、売ってる奴よりずっとおいしいわよ?」
「ああ、雑な手入れでも必要以上に育つし、ちゃんと実もなる。植え替えなくても次がまた生えてくるからたいしたもんだよ。イワノフさんの話では今回みたいな事があった時に何度か助けられたって。」
そう言いながら、バットはトマトをいくつか袋に入れる。まるで畑の主のような様子にアテナは感心して緑に覆われた狭い部屋を見回した。
「素敵ね、最新の自動プラントでもここまできないわ。」
アテナの賛辞にバットは苦笑しながら、草の中に手を突っ込んだ。
そこには草に隠れた水耕プラントの水槽があり、バットはそこからいくつものジャガイモを取り出して見せる。
「手入れが雑な結果さ、放置すると通気口を塞いだり、ライトを覆ったりしちゃうんだ。ここのシステムがどんなものかイワンさんだってわからないらしいよ。水耕プラントの水が何故か枯れないのも、どこからか水再生システムの水が漏れてるかもって。」
言いながらバットは、袋一杯にジャガイモを詰め込んでいた。
種類や栄養価はともかく、一先ずこれでしばらくは飢えることはないだろう。
言われてみれば、科学の塊のような宇宙船に、実に不可解なプラントである。
ろくな整備もしないどころか仕組みもよくわかっていないのに、植物は必要以上に育ち、実は成り、世代交代までしているようだ。
バットは一年面倒を見ていて、自分がなんら機械的な部分や種まき、肥料などを与えていない事に気づき、今この部屋で起きている事がずいぶん不可思議な事のように思えて来た。
そしてそれにアテナがなるほど、と手を叩く。
「そうか、これは魔法よ。この船、すごい魔力を持っているのよ」
「え?確かに動力は魔法らしいけど……」
何でも魔法と言って良いものか。
バットはアテナの言葉に懐疑的な声を上げたが、彼女は目をつぶり、静かに手を広げた。
どうやら彼女には、何か感じるものがあるらしかった。
「言ったでしょ?この船に居ると、まるで結界の中に居るみたいだって。この船は魔法で動いているから、いつも魔力を感じるの。もうこの船は、一つの生き物みたい。」
船内にあるはずのない風が吹く。
それは彼女が、船内に流れる魔力をバットにもわかりやすく感じて見せたもののようだった。
さながら本物の畑に居るような感覚に襲われたバットは息を飲む。
「保険にも入れないひどいぼろ船だと思っていたけど、君から見たらすごい船なんだ。家みたいに住んでいるとわからないもんだね」
「大事にされた物は心を持つわ。私たちの中では、心のこもった物は古ければ古いほど良いとされているの。この船は良い船よ。私はそう感じる。」
すごいな、そんな事までわかるんだ。
バットはアテナがこの船の魔力の存在を感じられることを少し羨ましく思えた。
そして彼女は静かに目を開けた。
「……ねぇ、バット。一つお願いしてもいい?」
「なに?」
「この野菜。私が料理してもいいかしら?きっとこれなら、私でも美味しい料理が作れると思うの。」
お客様にやってもらう事ではないけれど、とことわった上でバットは、快く野菜の調理をお願いした。
そしてバットは、また一つ勉強することとなる。
魔法の才能と、料理の才能は全く別であるという事を。
「ジュピター13」はこの日、貴重な食料をいくらか無駄に消耗することになった。




