備えあれば……
自動航行に切り替え、ひと眠りしたバットは、早速郭に任せていた経理関係の書類と備品のチェックを行っていた。
絶対何かあると思って取り掛かったのだが、結果は想像を絶するものだった。
「自衛用のデコイバルーンや、チャフ、自衛の対空レーザー砲はまぁ、分かるとしても、レールガンにミサイル。それに拾い物とはいえ荷電粒子砲まで……。一体こんなものどこから買って来たの?」
タブレットで備品データと経理データを照らし合わせ、現物を確認したバットは頭を抱えた。
どうりで閉鎖区画が多かったり、経費がやたら掛かったりするわけである。
それに郭は毎度のすました顔で
「まぁ、昔のつてからあれこれと……これでも安くしてもらいましたのよ?ほら、書類の上ではゴミ扱いですし。」
ととぼけた答えを返してきた。
今バットの目の前に並んでいるのは、閉鎖区画になっていたミサイル発射管室に並ぶミサイルの在庫だ。
書類上はともかく、これがゴミであるはずもない。
一年近く気づかなかった自分も間抜けだが、良く隠し通したものである。
「よくこれで、今までやってこれたもんだよ……軍か税関に見つかったら怒られるどころか逮捕されちゃうんじゃないの?」
「ご安心を、表向きは、自衛として認められる範囲で納めておりますわ。ビーム砲もイミテーション扱いですし。」
「……本当に撃てるのこれ?輸送船のエンジンで?」
「まぁ、エンジンの機嫌のいい時には。」
「……いい仕事してるよ。うちの社員は。」
ちょいちょい不穏なワードがさし挟まる郭の返答に、いよいよバットは細かい話を聞くのが怖くなってきた。
元軍艦だったとはいえ、こんなものが明るみに出た日には、商売どころではない。
「そもそも、社長の代になって治安の良い航路ばかり行き来するようになったので、いずれ廃棄するつもりでしたのよ?……まぁ、今回は残しておいたのが役に立ったのですから、良かったんじゃございません?」
「……ああまぁ、その点に関しては確かに助かったけどね」
確かに、その辺では魔法使いの仕事を受注してしまった自分に非が無いとはとても言えない。
おそらく郭のような、強引な方法を使わなければ今頃宇宙の塵になっていた可能性だってあるのだ。
「それに、どのみち、港から追い出されるところでしたからちょうど良かったんじゃございません?魔法協会から報酬をもらったら、またどこか別の星に行けばよろしいですわ。この船が出禁になっていな港は、まだまだたくさんございますし。」
確かに、そう言う考え方もあるのかとバットは思った。
確かに自分たちは特定の惑星に拠点を置かなくてもいい、独立商人だ。
最悪星から星へ渡り歩けばいい。どうにかそこでまたやり直す方法もあるのかもしれない。多分、父や祖父は、そうやって魔法使いの仕事を受けながらも生き残って来たのだろう。
そこでバットは、ふと心配事が浮かび、郭に問いただした。
「郭さん、この船が出禁食らってる港って……結構あるの?」
「……ええまぁ、でも、お互い忘れてること多いですし、十年ほどして、しれっと顔出せば存外気づかれないものですわよ?」
郭の言葉に、バットは盛大に息を吐き、そのまま黙って自動ミサイル発射管室の扉をしめた。
「他になにか、隠していることはない?毎度わけわからないまま言い訳させられる身にもなってよ。一応僕が責任者なんだし。」
重力ブロックに移動しながら、バットはまるで子供でも諭すかのように言った。
何しろ今回はこのような事態が連続してばかりで受け身にならざるを得なかった。
これから何をするべきか考える上で、自分はこの船の事や、昔の事を知らなさすぎる。
だが、郭は
「別に隠してるつもりもないんですけど」
と、悪びれる様子もない。
どうも向こうの方が一枚上手のようだ。
バットは、それに顔をしかめると、重力ブロックの廊下を歩きつつ、さらによく帳簿をめくった。
「……この「陸戦ユニット一体」って何?そこそこ維持費かかってるけど?」
「ああ、エイトですわ。彼、元は装甲騎兵団のクローン兵士ですの。」
「え?」
とんでもないことをさらっと言う郭に目が点になるバット。
慌てて再度別のデータに目を通すと、確かに、乗員バット込み3名になっている。
「本人も気にしていませんし、備品扱いにした方が、税金はじめもろもろ経費が安く上がりますの」
郭の言葉に、バットはいよいよ頭を抱えた。
確かに倫理的にどうなんだという、話はさておき。こういう事をやり続けて経費をやりくりしていたのであろう。
急に「まとも」に直すのにどれだけ手間と資金がかかるかわからないし、今のような危険な仕事に手を出してしまった現状では、生き残るため当面そのままにせざるをえない。
「……結局、ウチは魔法使いの仕事を危ない橋を渡ってやっていくことで経営を成り立たせていたわけだ」
「まぁ、そう言う事になりますわね」
自分の言葉に問題を解いた生徒を褒めるような笑顔で同意する郭に、バットは確かに知らなくてもいい事を知ってしまったのかもしれない、と思い始めていた。
バットが、そんな事を話しながら食堂のドアを開けると、会議室にいすを並べた程度の小さな食堂で、起きてシャワーを浴びたばかりらしいアテナが自動給水機相手に睨み合っていた。
「おはよう、アテナ。よく眠れた?」
バットが、声をかけると彼女は濡れ髪のまま満面の笑顔で答える。自分で持ち込んだのか、石鹸のいい香りがした。
「ええ、おかげさまで、ぐっすりよ。この船、結界の中にいるみたいでとても安心できるの。ずっと住みたくなったくらい」
客船ではない船に対する評価としては大げさな表現だが、バットは船長として素直に礼を言った。
そして彼女が何度も給水機のスイッチを押す姿を見て、おおよその問題を把握する。
自分も最初同じように戸惑ったものである。
「ああ、それはちょっとコツがあるんだ」
そう言うと、バットは給水機の上部を拳で叩いた。
すると、それがまるでボタンだったかのように、設置したコップに水が注がれる。
「2回叩くと、お湯。3回でコーヒー。ティーパックはそこの棚にあるよ、好きに使って。」
「……まるで魔法みたいね」
感心しているのか呆れているのか判らないアテナに、バットは君程じゃないさ、と苦笑した。
まったく自分もこの船にそれなりに馴染んでいるものである。
言われてみれば、ボタンが壊れている割に、何度殴っても壊れない給水機も、いい加減新調した方がいいだろう。
客船ではないにしろ、彼女のような客を乗船させるには設備も内装も、古くてガタが来ている。
何やら散らかり放題の自宅に人を招待してしまったような気まずさを感じ、バットは頭を掻いた。
船室が一つ、ちゃんと開いていたのがせめてもの救いである。
「ひとまず、航行中は僕らの仕事だ。アテナはお客さんなんだから、ここで食事でもして、今はゆっくり休んでよ」
そう言って、自分も一休みしようと、給水機を三回叩くバット。
だが、その向かい側で冷蔵庫をのぞき込んでいた郭が声を上げる。
「無理ですわ。船長」
「何が?」
「食事ができませんの。」
それは、考えてみれば当然の、だが重要な話だった。
バットは、郭に言われて冷蔵庫を覗き込み、首を項垂れる。
「……そうか、参ったな。いきなり出航したから、食料買い込んでなかったんだ」
「昨日の無重力用の携帯食品が最後。冷凍食品パックも、カップラーメンも在庫切れですわ。あとは……」
「お客さんに出すものじゃないけど、船内プラントの野菜で凌ぐか……」
なんともみっともない話だ。
困り顔で頭を抱えるバット。
そこへ、応急補修作業を行っていたイワンが入って来た。
「おお、若旦那、ここにおったか。船体とレールガンの修理じゃが、流石に部品が足らんからどうにもならん。囮にするため、ガラクタまでぶちまけちまったから、船体の穴も空いたままじゃ。輸送コンテナには生身で入らん方がいいぞ」
汗を拭きながら言うイワンの言葉に、バットはますます顔をしかめた。
「……これは無理をしてでもどこかで補給しないと。持ちませんわね」
郭の言葉に、バットは反論の余地を持たなかった。




