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銀河一夜物語~宇宙翔る魔法使いとの約束~  作者: 宮城 英詞
優秀な社員

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オーディンの腕輪

 「命令。ロス戦隊は逃走した不審船および魔法使いを追跡し、「ウィザードスマッシャー」奪還の任に当たるべし。なお、作戦にあたり、マルス魔術大尉が参謀として乗艦、これの指導に当たる」


 やはり来たか。


 ロス艦長は自分の艦に乗り込んで来た、若い参謀が命令書を読み上げるのを、特に驚くこともなく聞いていた。


 命令も何も、もうロス戦隊は巡洋艦1、ドローン艦5の編成で追撃の為、急ぎ出航した後だ。


 この手の命令の下達も、こうなっては儀礼的なものである。


 彼は


「拝命します」


 と軍人の儀礼に沿って、今では貴重になった紙の命令書を受け取った。


 そしてそれを副長のスコット大尉に渡すとやれやれと、艦長席に腰掛け、肩に負傷を笈腕を吊る参謀を見た。


「お互い、ずいぶんとえらい目に遭ったようですな?都市を武力制圧し、一個戦隊で追い回さねばならないほど、その銃とやらは大切な物なのですか?」


 ロスの言葉をマルスとかいう参謀は皮肉と受け取ったらしい。


 彼は、お前に何が判る、とでも言いたげな顔で階級も歳も上の参謀を見るとコツコツと足で床を叩きながらそれに答えた。


「あの銃は、本来「ヨーツンヘイム」の主砲の基部になるべきものでした。それが魔法使いに奪われたとなれば事は重大です。星間戦争時代のように、魔道帝国の復活のため、のどこかで武装蜂起される恐れもある。それを防ぐのが我々「魔法協会」から派遣された魔法使いの使命なのです。」


 なるほど、そう言う名目で参謀部に取り入ったか。


 ロスは、マルスの言いようを聞き、艦隊では新参の彼がなぜこうやって自分を「指導」できているのかを理解した。


 確かに星間戦争時代、魔法使いによるテロや、武装蜂起が頻発し、手を焼いていたことをロスは記憶している。


 魔法使いに対抗するには魔法使いを連れてくるのが一番。


 このため「銀河魔法協会」の魔法使いは軍内でそれなりの階級が与えられる。


「……しかし」


 ロスは、マルス参謀の言葉に、あえて、とぼけた口調で言葉を返した。


「不審船の船名は「ジュピター13」。私が聞いた話では「魔法協会」とはずいぶん縁が深い船だとか。……何か、協会内で派閥争いでもありましたかな?」


 今回は本当に皮肉交じりの質問だった。


 マルス参謀は、それをふん、と鼻であしらう露骨に嫌な顔をして、ロスに背を向けた。


「余計な詮索はせぬ方がよろしいかと。協会も参謀部もそれなりの戦略と意図を持って動いております。艦長も、命令に疑問をさしはさみ、痛くもない腹を探られたくはないでしょう」


 マルスの言葉にロス艦長はスコット副長と目を合わせ首をすくめて見せた。


 そして苦笑しながら頷いて、手元のコンソールを操作し、追撃の為の不審船の予想針路データの検証準備を始めた。


「おっしゃる通り、駒が余計な事を考えるべきではありませんな。では、参謀殿にはぜひ有益なご助言をしていただきたいもので。」


 そう言いながら、ロスはどうしても皮肉が抜けなかった自分の言いように、また苦笑した。





 殺人的な加速で、どうにか追っ手を振り切ってから一時間後。「ジュピター13」のブリッジでは追っ手も、待ち伏せもない事を確認したという事で遅い夕食が配られていた。


 無重力のブリッジ内でレトルト式の食べ物と、ストローで飲む粉っぽいコーヒーを飲みながら、事情を聴いたイワンは、顎鬚を撫でながら「ウィザードスマッシャー」を複雑な表情で眺める。


 不思議な事に、追っ手を振り切ってからは、バットはホルスターを外すことができていた。


 おそらくバットから離れる可能性が低くなったせいだろう、とはアテナの話である。


「なんとまぁ、若旦那がこの銃に選ばれてしまうとは……やはり血筋という奴かのう。」


 どうやらイワンはこの銃の事を知っていたらしい。


 それにバットは驚いて、老機関士の顔を見た。


「知っているの?」


「ああ、こいつは3丁ある「ウイザードスマッシャー」のうちで、「皇帝殺しの銃」とも言われ、「オーディンの腕輪」の封印を行っていた者に引き継がれておったものじゃ。最後の持ち主は……確か、マルス導師……」


「あの、宇宙港で僕たちを襲って来た魔法使いが、持ち主だったの?」


 イワンの話にバットがもう一度聞き返す。


 するとバットの上を漂っていたアテナが、大きく首を振ってそれを否定した。


「多分偽物。もしくは別人ね。私が話に聞いていたマルス導師は……というか、魔導士の位をもらう魔法使いはあんなマヌケじゃないわ。そもそも、銃に認められてはいなかったみたいだし。」


 アテナの言葉にイワンも大きく頷いた。


「マルス導師は「オーディンの腕輪」に取りつかれてしまったお方じゃ。……もし仮に生きておったら、この程度では済むまい。」


「取り憑かれた?」


 恐らく、そのマルス導師に会ったことがあるのだろう。


 思い出したくもない事を思い出したような表情のイワンの代わりに答えたのはアテナだった。


「「オーディンの腕輪」は皇帝が使っていた魔導石なの。強力な魔力を吸い込んで、逆に人を操るほどの「意志」を持っているわ。マルス導師はそれに取りつかれてしまったの。魔法協会ではもう、その名を継ぐ者は居ないわ。」


 おそらく魔法協会にとっても忌むべき事件だったのだろう。アテナですら、言いにくそうにしている様子から「マルス」という名がそれなりの意味を持っていることがうかがえた。


 それに、イワンも重い口を開く


「先代のアテナ……つまりそこの術士様のお師匠様に倒され、腕輪もその時に行方が分からなくなったと聞いておる。ここで、マルスの名を騙る者と、この銃が現れたという事は、何かよからぬことが起きておるのかもしれんな。」


 首の裏を擦りながらそう言うイワンに、同じくバットの上で腕を組みうなり声を上げるアテナ。


 それに、航宙士席の郭がモニターにデータを提示して見せた。


 それには、追いかけて来た軍艦や、降下してきたドローンたちの映像が映る。


 そこには、艦隊の識別マークが大きく拡大されていた。


「タサカに現れて我々を追って来たのは、ノクス提督の艦隊ですわね。確か銀河連邦艦隊への編入にかなり最後まで抵抗していた艦隊で、所属艦艇を減らされた上、担当を辺境惑星に替えられたはず。船体の整備の名目でタサカに駐留していたようですが……、その話込みですと、なにかそちらはそちらでよからぬ事を考えているのかもしれませんわね。少なくとも、タサカに陸戦隊を降ろすなんて、銀河連邦に対する反逆と取られてもおかしくはありませんわ。」


「郭さん、詳しいですね……。」


「この手の政治経済話は結構好きですの。」


 バットが意外そうに言うと、郭はなぜか誇らしげに、ホホホ、と笑う。


 まったく、先ほどの操船指揮もそうだが、この人、絶対ただの航宙士ではない。


 バットはますます底の見えない航宙士の笑顔を眺め、本当に親父は何をやっていたのか、と問いただしたくなってきていた。


「とにかく。私の任務はシュクの魔法協会にこの銃を届け、しかるべき人に渡し、判断してもらう事よ。まずはシュクへ、そこから先はまた考えたらどうかしら。」


 なるほど、アテナらしい意見だ。


 自分は、アテナを運ぶのが仕事。


 銃に選ばれたことが何を意味するのかは、また偉い魔法使いにでも聞けばいい。


 もしかしたら、もっと有効に活用できる人がいるかもしれないし。


 そもそも、お尋ね者のようになっている現状を何とかしてもらわないと、先が全く見えない。


 バットはシンプルな彼女の言葉に大きく頷き、そして航路図をモニターに映し出した。


「郭さん、今後の予定は?」


「現在、追っ手の艦隊から逃れるために、シュク方面とは逆方向に飛んでいます。かなり大回りになる上に、難所も多いですが、シキ星系から、ラヤノ星系を抜け、シュクのあるラヤチホ星系に行けば、引き返さずにたどり着けるかと。スムーズに行って銀河標準時間でおおよそ1週間の工程になりますわね。」


 星系をまたいでぐるっと大回りするコースだ。


 なんとも、長い旅になりそうだ。


 バットは提示されたコースを見ながら、今後の事を思い唇を噛んだが、「客」であるアテナは、ずいぶん嬉しそうにその地図を眺めていた。


 彼女は気楽な様子だが、自分は船長として、やることは山積みだ。


 バットは、手始めにこの航海中にこの老朽船の状態を再度確認しようと思った。



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