第10話 ゲームの開始
聖桜女学院の控室にて——
玲奈が凌を励ます。
「最初は体力勝負だよ、リョウ。準備はできた?」
凌はマスクを手に取りながらぼやく。
「それにしても何でカエルのマスクなわけ?」
「マスクを取ったときに素顔との間にギャップがあって面白いでしょ」
「そうかな?」
横から優花が呟く。
「マスクと素顔、あまり変わらないかもね」
どうやら凌の丸坊主をまだ根に持っているらしい。
ステージにはずらりと並んだ8人の男子。全員が色とりどりの仮面をつけている。
ウルトラマン、般若、仙人……マスクのチョイスは完全にカオスだ。
中でも、緑のカエルくんのマスクが妙に目を引く。
マスクの主は言わずと知れた 北村 凌 。
満員の観客席、見に来ているのはほとんどが女子だ。
空気はざわめきに包まれていた。
マドンナ役の九条詩織は、舞台の中央に優雅に座っている。
落ち着いた微笑みはさすが名門のお嬢様。
その隣には、司会の星野瑠華が立っていた。
明るい茶髪を揺らしながら、マイクを持ってハキハキと声を上げる。
「さあ皆さん、お待たせしました! 本日、詩織さんのハートを勝ち取るべく集った8名の勇者たちです」
ひときわ大きな拍手と歓声。
凌は心臓が跳ねているのが自分で分かった。
指先まで汗ばんでいる。
「まずは第1関門、体力勝負です。ルールは簡単、号令に合わせて懸垂スタート! 4人脱落したところで終了、上位4人が次の関門に進めます」
ステージ横には、鉄棒が設置されている。
それぞれにぶら下がる8人の男子たち。
色とりどりの仮面が並ぶ。
「いきますよ〜スタート!」
号令とともに、懸垂が始まった。
「イーチ!」
「ニーイ!」
「サーン!」
観客たちも司会と一緒に号令をかける。
「ううっ……」
凌は歯を食いしばった。
腕が痛くなり、指が鉄棒から滑りそうになる。
頭の中に特訓の日々が頭をよぎった。
――玲奈の車に追いかけられて走った坂道。
――優花と選んだ新しいジャケット。
――美月との無数のトーク練習。
ここで落ちるわけにはいかない。
最初はバルタン星人がギブアップ。
そしてダースベイダーが続く。
残りは6人だ。
苦しくてもフォームを崩さないことに集中する。
そして数分後——
「タイムアーップ!」
4人目が脱落した瞬間、司会の瑠華が叫ぶ。
途端に凌の力が抜けて鉄棒から落ちた。
腕が震えている。
「カエルくん、通過〜!」
歓声の中、凌は息を切らしながらも安堵する。
だがその横で、ウルトラマンが、なおも軽やかに懸垂を続けていた。
「えっ……まだやるの?」
「彼、余裕だね」
観客がざわめく。
瑠華も思わずマイクを通して言った。
「ウルトラマン、タイムアップの後に5回も続けてくれました〜!」
観客から「すごーい!」という声が飛び交う。
凌はその男を横目に見ながら、口の中でつぶやいた。
「……あれ、ひょっとして颯介じゃね?」
教室で凌の髪を引っ張ったクラスメートだ。




