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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第25章:トルコ・東西文明が出会う場所【2030年2月13日】
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第377話:ボスポラス海峡

挿絵(By みてみん)


「40年間か。長かったな」

 トルコへと向かうプライベートジェットの操縦席で、ジャックが漏らす。


 米軍のエースパイロットまで務め上げ、空とともに半生を過ごしたジャッ()クが、操縦桿を手放す日まであと数日。


 十萌さんが、笑いながら言う。

 「感傷にはまだ早いわ。トルコからベトナムまでは、きっちりと送り届けてもらいますからね」


 ――なんだか、妙な展開になってきた。

 給油のためとはいえ、もともとベトナムに行くはずが、なぜかトルコに向かっている。


 まぁ、いっか。

 わたしは心の中で呟く。


 実をいえば、トルコはずっと憧れていた場所でもあった。

 篠原千絵の『夢の雫、黄金(きん)の鳥籠』、そして『天は赤い河のほとり』の二作品は、まさにこのトルコが舞台だったからだ。


 今すぐにでも一巻から読み直したくなる衝動を、ぐっと抑える。

 合計48巻にも及ぶ大作を読み始めたら、きっと眠れなくなってしまうだろう。


 代わりに、十萌さんお勧めの『文明の衝突』のページを開く。

 まるで教科書のような語り口のこの本は、飛行機の心地よい振動と相まって、睡魔を誘う。


 十分もしないうちに、わたしは眠りの世界に落ちていた。


 **********


 2030年2月13日 トルコ・イスタンブール


 昨晩、一睡もしていなかったせいだろう。

 ハバナからトルコまでの12時間を超えるフライトの大半は、ベッドの上で過ごしていた気がする。


 起きては『文明の衝突』を読み、また少し寝て、目を擦りながらも再びページを開く。

 

 読み始めの数十ページは、苦行に近かった。

 それでも、読み進めるうちに、どんどんのめりこんでいった。


 『文明の衝(そこ)突』には、数多くの文明が描かれていた。

 西欧文明、イスラム文明、ラテンアメリカ文明、ヒンドゥー文明、アフリカ文明、中華文明、正教文明、それに日本文明も。


 それぞれの文化的差異が増幅していき、やがて衝突へと向かっていくメカニズムが、これでもかというくらい克明に描き出されている。


 ――十萌さんが言っていたのは、これのことか。

 確かに、この本の中でのトルコは、”引き裂かれた国”として描写されている。


「特にイスタンブールは、ヒッタイトに始まって、ギリシャ・ローマ、東方キリスト教、そしてイスラム教と、様々な文化が入り交じってきたからね」


 そう言うと十萌さんは、飛行機の窓を覆っていたブラインドをゆっくりと引き上げた。


 眼前に、光の洪水が飛び込んできた。

 ピンク色の残照を残して、街を夕闇が包み込み、海峡が分かつ二つの大陸を赤い橋が繋ぎとめている。


「あれが、ボスポラス海峡よ」


「両岸の距離って、思ったよりも近いんですね」

 ヨーロッパとアジアを分かつ海峡と聞いていたので、対岸が見えないくらい離れているのかと思っていた。


「ええ。最も接近している場所は、1キロにも満たないの。フェリーに乗れば、ものの数分よ」


 だけど……と十萌さんは続ける。

「西洋と東洋の文化の溝は、この海峡よりも遥かに深いわ」


挿絵(By みてみん)

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