第376話:文明の衝突
「自分が、ブレまくっている気がするんです‥‥‥」
十萌さんに、素直に心の裡を伝える。
昔からそうだった。
『ナルト』を読めば、ナルトにもサスケにも共感してしまっていた。
そして、その対立が際立つにつれ、二つの想いに挟まれ、もろに心にダメージを食らってしまう。
このキューバを舞台に、人類を巻き込んだ共産主義と資本主義の対立もまた、双方に一定の理があるように思えるし、同時にどちらも極端な気もする。
「ベトナムに、行ってみてたいんです」
当時の冷戦の影響を、最も強く受けた国。東西に分裂し、アメリカと最後まで戦いぬいた国。
その国の人たちは、今、そんな過去にどう折り合いをつけ、前を向いているのだろうか。
「いいわよ。現地の大使館に話をつけておいてあげる」
十萌さんがあっさりと言う。
――ただ、と続ける。
「キューバからはベトナムまでは、直線距離でも1万5000キロ以上あるわ。プライベートジェットの限界飛行距離を超えている以上、どこかで給油が必要ね」
十萌さんがスマホをスピーカーに切り替え、ジャックに電話をする。
電話越しに、ジャックが即答した。
「トルコだな。あそこなら、ほとんど中間地点だから、1回の給油で済む」
十萌さんが何かを納得した表情を浮かべる。
「なるほど……”引き裂かれた国”か――。それはアリしれないわね」
引き裂かれた国?
それって、トルコのことだろうか。
「ああ、ハンチントンの『文明の衝突』の表現よ。古来からのイスラム教と、欧米的な国家観の間でアイデンティーが引き裂かれてしまう―――っていう意味」
『文明の衝突』という本の名前だけは聞いたことがあった。
何だかとっつきにくそうで、読んだことはなかったけど。
サラに訊ねると、こう説明してくれた。
「ソ連が崩壊し、冷静が集結することとにより、資本主義と共産主義という『イデオロギーの対立』から、『文明観の衝突』に対立の主軸が変わっていく――。そう主張し、世界で議論を呼んだんだ」
今から34年前の、1996年に書かれたというその本の内容は、むしろ世界で起こっている問題をそのまま言い当てている気がした。
十萌さんが言う。
「トルコはかつて、『文明のゆりかご』だった。でも、今は、まさに文明観の対立に引き裂かれているわ。そんなトルコを、目で見て感じた後、ベトナムに行ってはどうかしら?」




