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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第24章:キューバ・亜熱帯の冷たい戦争【2030年2月11日】
375/379

第375話:弱者

挿絵(By みてみん)


「え!? あのゲバラが、『核ミサイルを打つべきだった』って言ったんですか?」


「ええ。『社会主義解放の勝利のためなら、数百万人の原子力犠牲者も価値がある』――そうインタビューで語っています」


 わたしは、強いショックを受けた。

 教科書や、Tシャツやグッズにプリントされたアイコンとして、チェ・ゲバラの存在は、わたしでさえ知っていた。


 そして、そのイメージは、決して悪いものではなかった。

 むしろ、アメリカという帝国主義国に立ち向かった、不屈の英雄(ヒーロー)。そんな印象だった。


 ただ、いくら社会主義という理念のためとはいえ、数百万人もの命を捨ててもいいと公言するなんで……。


「僕も、それを聞いたときはショックでした。それまで、ゲバラを心酔していただけに、なおさら」


 今まで明るかったハルトの表情が、初めて暗く陰る。

「僕に、日本人の血が入っているせいかもしれませんが‥‥‥。それを差し置いても、あの発言だけは耐え難いと感じています」


 小さいながらも、巨大な相手に立ち向かう、不屈の者たち。

 そういう姿に、人は憧れる。


 ましては自分の国を護る戦いであれば、なおさら共感を覚えやすい。


 けれど、弱者が常に正しいとは限らない。

 仮に理想が正しくても、その手段が大きく間違っていたら、味方までも不幸にしてしまうことすらある。


 わたしは、自分の中の、善悪の基準が揺らぎ始めているのを感じた。


『13DAYS』を観たときは、アメリカ目線からソ連やキューバに反発を覚え、メイン号の冤罪事件の話を聞くや、アメリカの狡さに憤りを感じ始める。


 よく考えれば、ゲバラに対してもそうだ。

 勝手に英雄像を作り上げておいて、いざその残虐性に触れると、とたんに嫌悪感が芽生えていく。


 ふと、わたしは、昨夜のジャックの話を思い出す。


 『ゲバラになる』と書き残して、ベトナムの地に消えた彼の義兄が、もし今も生きていたとしたら――。


 いまだに、ゲバラが掲げた理想を抱き続けているのだろうか。

 それとも、どこかで資本主義という現実と折り合いをつけて、普通に暮らしているのだろうか。


 気が付けばわたしは、ベトナムという国に強い興味を持ち始めた。

 アメリカの歴史上、唯一敗北を喫した国。


 日本よりも国土が小さく、人口も少ないにもかかわらず、あの超大国相手に、なぜ最後まで戦い抜けたのだろうか。


挿絵(By みてみん)

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