第374話:喉元の刃
「煽情的なメディアが、確固たる証拠もないまま、『スペインの卑劣な攻撃』といった見出しで連日報道しました。それにより、国民感情が一気に戦争に傾いたのです」
わたしは思わず呻いた。
これは、完全に他人事じゃない。
現代のメディアでも、全く同じことが起こっている。
いや、何なら皆がSNSを持ち、根拠がなくても発信できる時代になったからこそ、混乱に更に拍車がかかっている気さえする。
「ただ、このメイン号事件が、キューバのスペイン統治を終わらせたことも事実です。実際、1902年には、キューバ共和国として独立宣言を果たしました」
「じゃ、キューバの人たちにとっては結果的に良かったということですか?」
「いえ、事はそう単純ではありません。戦勝国たるアメリカが、キューバ憲法に、アメリカがキューバの内政や外交に干渉する権利、いわゆる”プラット条項”を組み込んだのです。つまり、キューバにとっては、単に宗主国がスペインからアメリカに変わったのに等しかったのです」
―――全く知らなかった。
「実際、その後のキューバはアメリカの傀儡政権が続き、腐敗やマフィア癒着、拡大拡大が広がっていました。そして約半世紀を経た、1959年にようやく”真の独立”を果たしたのです」
メイン号事件から約60年間、アメリカの統治が続いていたということか。
それであれば、現在のキューバ人の反米感情にも頷ける。
「1960年には米国と国交断絶し、翌年には、フィデル・カストロが社会主義宣言をしています。そして、1962年、人類最悪の13日間、あのキューバ危機が起こったのです」
そういって、ハルトは建物への外へとわたし達を誘った。
暫く歩くと、平和な晴天の下に、物騒な灰色と赤のミサイルが上空が目に入ってくる。
「旧ソ連のS-75 Dvina 地対空ミサイル――。当時のキューバに配備された同型です」
ハルトが低い声で続ける。
「もしあの時、全てのミサイルが米国に発射されていた場合、死傷者は数千万人に上っていたと試算されています」
確か『13DAYS』の中でも、8000万人と言われていた気がする。
そんなミサイルが、フロリダから90マイルのハバナに設置されたら、まさに喉元に刃を突き付けられたのと同様だろう。
「結局、最終的にソ連が譲歩してミサイルを撤去したんですよね?」
「ええ。そのことに、カストロは『ソ連の裏切り』として激怒しました。ゲバラに至っては、『ミサイルは発射されるべきだった』とまで言い放ったのです」




