第373話:13DAYS
2030年2月12日 キューバ・ハバナ
「大丈夫?昨晩、ちゃんと眠れた?」
過剰な糖分で頭を少しでも働かせようと、プーさん並みにシロップたっぷりのトーストを頬張るわたしに、十萌さんが尋ねてくる。
メイクでクマを隠していたつもりだったけど、やっぱり十萌さんの目はごまかせない。
昨晩、『地獄の黙示録』のシーンがの脳内で暴れ始め、どうにも眠れなくなった。
気分を上書きしようと、もう一本映画を観始めたら、更に目が冴えてしまった。
「何を観てたの?」
「13デイズ……です」
道理で……と十萌さんが呟く。
冷戦の最中の1962年、ソ連がキューバに核弾頭を極秘配備したことに端を発し、全世界が核戦争の瀬戸際に立たされた。その緊迫の2週間を余すことなく描いたのが『13デイズ』だ。
普段ならまだ、余裕をもって観られたかもしれない。
けれど、『地獄の黙示録』でキャパいっぱいになったわたしの感情は、13デイズで堰を切ったように溢れだし、一睡もできなくなった。
それでも、革命博物館に行く前に、この映画は最後まで見ておくべきだと思った。
「予定をキャンセルして、部屋で休まれますか?」
心配そうな表情のハルトが、レモン水のコップを手渡してくれる。
喉を通るひんやりとした感触が、睡魔を少しだけ晴らしてくれる。
「行くわ。キューバの民を、そして世界で何があったかを知るためにも、必要なことだから」
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「革命博物館」という厳めしい呼称には似つかわしくない、優雅な白亜のバロック建築に、ハルトの声が響く。
「1898年2月、キューバ独立のきっかけとなる事件が起こります。それが、『メイン号事件』です」
「メイン号って、米国の船の名前でしたっけ?」
必死で世界史の記憶を呼び起こす。
「ええ。当時のアメリカ海軍の第二級戦艦です。そのメイン号をが『スペインの機雷攻撃によって沈没された』とアメリカ側が主張し、いわゆる米西戦争が始まりました」
「実際はどうだったんですか?」
「スペイン側は、メイン号内部の石炭庫の事故と一貫して主張し、共同調査まで提案しましたが、アメリカ側はそれを拒否しました。ですが、事件の78年後にようやく行われた共同調査では、結局、内部誘爆事故の可能性が高いと結論づけられています」
「つまり、アメリカによる冤罪だったってわけですか?」
「当時アメリカは世界覇権を狙っていました。だから、メイン号の”事故”が開戦の口実として利用されたのでしょう。実際、多くのアメリカ国民は、その”陰謀論”に乗せられ、戦争へと突入していきます」
――なんだか、やたらと既視感がある気が……。
正直、これが現代の話と言われても、全く違和感がない。
「事件の当初は、アメリカでも慎重論もあったと聞きます。ですが、イエロー・ジャーナリズムと呼ばれる煽情的なメディアが、確固たる証拠がないまま、『スペインの卑劣な攻撃』といった見出しで連日報道しました。それにより、国民感情が一気に戦争に傾いたのです」




