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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第24章:キューバ・亜熱帯の冷たい戦争【2030年2月11日】
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第371話:葉巻とラム

挿絵(By みてみん)


「ラムを使った、当ホテルのシグネチャ(看板)ーカクテルです」

 バーテンダーが、ステム(持ち手)がやたらと長いカクテルグラスを差し出してくる。


 カリブの海風と、遠くの焚き火の煙と混じったような香りが、鼻孔をくすぐる。


 20歳になったばかりで、大学の新歓での安いお酒しか知らなかったけど、”ラム酒博物館”で飲んだ一杯は思いのほか美味しかった。


 わたしは、その濃厚な甘さを楽しみながら、スマホをスワイプし始める。

 すると、一時停止されたヘリコプターの画像が、目に入ってきた。


 ――あ、そういえば、サラに勧められた『地獄の黙示録』、見途中だったんだ。


 大音量の「ワルキューレの騎行」とともに、米軍ヘリがベトナムの村を空爆するシーンだ。

 冒頭から漂う不穏な空気と、その時代感に戸惑いつつも、どうしても目が離せない映画だった。


 わたしは、イヤフォンをして、映画を再生する。

 一瞬でわたしの意識は、1969年のベトナムへと飛ばされていった。


 **********


 映画のエンドロールが流れ始めたころ、夜は完全に更けていた。

 あまりに没頭しすぎて、自分がどこにいるのかも分からなかったくらいだ。


「観終わったか?」

 背後のテーブルより、不意に声を掛けられて、わたしはびくっと身を震わす。


 振り向くと、ジャックの姿があった。

 彼のテーブルの前には、琥珀色のウィスキーグラスと、その丸い飲み口を真一文字に分かつように葉巻が置かれている。


「ジャックさんも、飲みに来たんですか?」


 わたしの問いに、ジャックは軽く笑って首を振る。


「まさか。いつ何時、フライト指令が飛んでくるか分からないローゼンバーク家のお抱えパイロットに、そんな余裕はないさ」

 確かに、酒飲みのパイロットの飛行機には絶対乗りたくない。


「でもそれ……」とわたしが手元のグラスを指すと、ジャックは思い出したように言う。


「これは、義兄への(はなむけ)さ。ずっと夢見てたからな。いつか本場のキューバ産の葉巻とラムをやりたいとな」


 そう言えば飛行機の中で、チェ・ゲバラに憧れる義理の兄がいると言っていた気がする。


 ジャックが、葉巻に火をつける。

 煙を深く吸い込むと、再びグラスの上に置いた。


「今、お義兄さんはどこにいるんですか?」

「消えたよ。ベトナム戦争の最末期にな」


 空に上る葉巻の紫煙が、失われた者に手向ける煙のように見えた。


挿絵(By みてみん)

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