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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第24章:キューバ・亜熱帯の冷たい戦争【2030年2月11日】
370/380

第370話:私は白いバラを育てる

挿絵(By みてみん)


「キューバ独立の父・ホセ・マルティの慰霊塔です。彼こそが、現代キューバの礎を作ったのです」

 誇らしげにハルトが言う。


 こんなに巨大な慰霊塔が建てられている以上、キューバでは絶対に有名人に違いない。

 でもぶっちゃけ、自分の人生で一度も聞いた覚えがない。


 ――高校時代、もっと、真剣に世界史を学んでおけばよかった。


 当時のわたしにとって、世界の歴史は距離的にも時間的にも遠すぎた。

 だから、テストさえ乗り切れれば、それでよかった。


 けど、こうして、世界中が危機に陥っている今、むしろそれこそが、一番重要な教科だったんじゃないかとさえ思う。


 だって、相手を形作っている歴史を知らなければ、本当の意味で相手を理解することは難しいから。


「ご、ごめんなさい。実際、ホセ・マルティ―って、何をした人なんですか?」


 ――お気になさらず……と前置きをしてハルトが答える。


「彼は、1853年にハバナの貧しいスペイン移民の家庭に生まれた詩人です。第一次キューバ戦争に賛同して逮捕され、国外追放されますが、亡命先の各国で教育を受け、ニューヨークで革命党を立ち上げたんです」


「政治家とかじゃなくて、詩人……なんですか?」


「ええ。彼は、詩集『イスマエリージョ』で自由や尊厳を次世代に託す大切さを、『Nuestra Amé(我らがアメリカ)rica』を通して、ラテンアメリカ諸国の団結を訴えました」


 2030年の今、詩人と呼ばれる人々は、いるにはいる。

 けれど、詩人が政治を動かしたなんて話は、ついぞ聞かない。


 もしかして昔は、媒体(メディア)が少なかった分、言葉がより重かったのだろうか。


「ホセ・マルティ―は、言葉だけでなく、実際に行動していますからね。キューバ独立のための資金集めや組織化に奔走した後、第二次キューバ独立戦争では自ら前線に立っています」


「じゃ、その独立戦争で勝って、キューバを建国したってことですか?」

「いえ、彼自身は、その戦争で銃弾を浴びて戦死しています。その5年後、彼の意思を継いだフィデル・カストロがキューバを建国するのです」


「そう、なんだ……」

 わたしは口を噤む。


 悲願の建国を前にして、道半ばで斃れた無念はいかほどのものだっただろう。

 わたしは再び、その真っ白な慰霊塔の足元の彫像を見る。


「『私は白いバラを育てる』という詩の中で、マルティ―はこう歌っています」


 そういうと、ハルトが日本語で滔々と詩を詠唱し始める。


 私は白いバラを育てる

 七月も一月も同じように

 真心の友のために

 彼は私に率直な手を差し伸べてくれる

 そして、私の生きる心を引き裂く残酷な者に対しても

 いばらも毒草も育てはしない

 私は白いバラを育てる


 どこから取り出したのか、ハルトは、一輪の白いバラを、彫像に捧げる。


「戦争という最悪の時代においても、彼は、敵意に敵意で応じず、善意と人間性を保ち続けようと訴えました。その気高い精神こそが、キューバ建国の支えとなったのです」


挿絵(By みてみん)

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