第359話:極寒の海
「”全なる亡霊”という器は、継承され続けなければならない。次の世代にも、その次の世代にも」
ルカの言葉が、まるで渦のようにぐるぐると頭の中で駆け巡る。
全なる亡霊――。
過去の偉人たちの集団的意識。
それを有しているのがルカ・ローゼンバーグであり、その継承者こそが目の前にいるカイだった。
カイが感情を殺した口調で言う。
「覚えているか?”始原の島”で、ルカが言ったことを……」
目の前の空間に、その時の映像が映し出される。
「様々な宗教家の意識が流れ込んでくる中で、やがて私は、根底に流れる”想念”を感じ取っていた。つまり、『人類を救うべき』という、ほとんど脅迫観念に近い信念だ」
――そうだ。確かにルカはそう言っていた。
わたしたちが生まれる前のこの時すでに、ルカは『人類の人為的な進化』を想定していたとでもいうのだろうか、いや、あるいは、あらゆる偉人の記憶を受け容れた先に、その考えに至ったのかもしれない。
ホログラフィック映像が、再び切り替わる。
今度は、各国の首脳の前で、ルカがこう宣言したときのものだった。
「私たちの共通目的とは何か?それは、未来に一人でも多くの人類を、生き残らせることに他ならない」
「ルカにとっては、”人為的進化”もまた、一つの手段に過ぎない。最終的な目的――つまり、人類の生存のためのね」
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人類の生存――。
つい、半年前までは、こんなことは一度たりとも考えてみたことなどなかった。
わたしにとっての、たった二人の親友である、カイと星。
一人は”人類の進化”によって、もう一人は”宇宙への進出”によって、人類生存への道筋を必死で描こうとしている。
ただ、どう考えても、わたしのキャパは、人類全体を考えられるほど大きくない。
だから、目の前にいる大切の人のために、何かをやるしかない。
けれど、この二人の天才を前にして、わたしなんかにできることなんてあるんだろうか……。
そんな葛藤を感じ取ったのか、十萌さんが横から声をかけてくる。
「『ファーストペンギン』の話、覚えている?」
――確か、こんな話だった。
確か、極寒の海を前にしたペンギンの群れの中で、誰かが先に飛び込むことで、その後にみんなが続いていく‥‥‥。
「カイさんも星君も、その海に飛び込もうとしているわ。本当にそこに目指すものがあるかは分からないけど、それでもなお、細い希望を伝って。だからせめて私達は、その背中を護りましょう。彼らが、何度でも、何度でも飛びこめるように」




