第358話:覚醒したもの
「つまり、わたしが『気』が見えるようになった原因が、わたしのおじいちゃんだったってこと?」
カイが曖昧に頷く。
「ああ、幼いころから一心先生に接し続けることで、自然とその力が伝播していったのだろう。『覚醒』の直接のスイッチを押したのは、ヴィクラムがリンの脳に刺した”銀の針”だったかもしれないがな」
わたしは、旅の記憶を呼び覚ます。
思えば、脳波や気を自由に操っていた、サウジアラビアのジャイールや、少林寺の朱飛もまた、『覚醒したもの』だったのだろうか。
「少林寺もまた、ある意味で隔絶した空間だものね」
十萌さんが言う。
確かに、千年以上、外部から孤立したあの山で集団修行を続けていれば、どこかの時点で『初めての個体』が生まれ、それが修行仲間へと伝播していってもおかしくはない。
「まぁ、覚醒条件、そして伝播条件についてはまだわかっていない点も多い。何よりも、『初めの個体』が生まれるメカニズムが証明されていない以上、再現性は薄いと言わざるを得ない」
――ん?え?再現性?
わたしは、その言葉に強いひっかかりを覚える。
「ちょ、ちょっと待って‥‥‥。カイたちがやろうとしていることって、まさか……」
カイが、表情一つ変えずに言う。
「ああ。”人類の進化”を人為的に引き起こす。火と氷の時代を生き延びるために」
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わたしは、思わず身震いをした。
完璧に整えられているはずの研究室の温度が、わたしの周りだけ一気に下がった気がした。
かつてこの地で進化論を発見したダーウィンも、『人は神から生まれた』と考えていた人々から徹底的に敵視されたという。
けど、それはあくまでも『過去に発生した事実を発見した』だけに過ぎない。
もし、”人類の進化”を人為的に引き起こそうというのであれば、それは間違いなく、”神をも恐れぬ所業”として、それとは比にならないほどの迫害を受けるだろう。
「いつから、そんなこと考えていたの?」
わたしはようやく言葉を絞りだす。
カイの瞳から、すっと感情が消えていく。
「ルカの記憶の一部を受け入れたときから……だよ」
わたしは、あのポリネシアの孤島での、ルカ・ローゼンバーグの言葉を思い出す。
「”全なる亡霊”という器は、継承され続けなければならない。次の世代にも、その次の世代にも」




