第356話:ダーウィンフィンチ
「共鳴……進化論?」
全く聞いたことのない言葉に、わたしは思わず首を振る。
カイが目配せすると、ヒナはこくりと頷く。
「では、まずは”元祖”のダーウィンの進化論についておさらいしますね」
先生のような口ぶりで、ヒナが眼前の3次元の地球地図を操作し始める。
すると、突如視点が切り替わり、ガラパゴス諸島周辺の地図がクローズアップされる。
更に、ズームしていくと、わたし達のいる無人島へと画面が切り替わる。
――これって、鳥目線?
「ダーウィンフィンチ。かつて、チャールズ・ダーウィンが進化論を発見したきっかけとなった鳥です」
そう言うと、今度は別の鳥の目線となり、サボテンの上に留まる黒い小鳥にカメラが寄っていく。
どうやらカイとヒナは、この島の周囲に無数のアバターを飛ばし、あらゆる角度からその生態系を”研究”しているようだ。
「例えば、この鳥は、『サボテンフィンチ』と呼ばれ、長くて下方に湾曲した嘴で、サボテンの花や実を食べます。他にも‥‥‥」
更にカメラが切り替わり、立て続けに十匹ほどの鳥が移される。
どれも比較的に小さいということを除けば、体毛も顔立ちも異なり、あまり共通点は見られない。
「これら、同じ”フィンチ”と呼ばれると言われる鳥ですが、ここ、ガラパゴス島では独自に異なる進化を遂げ、十数の種に枝分かれしています。ダーウィンの言う『自然選択』の結果として」
「確かに、高校の生物の教科書でそんな言葉が出てきた気はするけど‥‥‥」
当時は、あくまでも受験のための勉強で、自分事としては全く捉えていなかった。
「”環境に合った形質を持つ個体が、より多くの子孫を残しやすい ”っていうことです。硬い木の実しかない場所で生まれたフィンチは、くちばしが自然と固くなり、また他の場所ではほかの種へと進化するってことですね。絶滅を避けるために」
――そこまでは何となく分かる。
だけど、カイが行っていた、『共鳴』進化となると途端に意味が分からなくなる。
「でも、なぜこうした進化がガラパゴス島だけで進化が加速したのか――と思いませんか?だって、硬い木の実なんて、世界中にあるんですから」
そう。核心はそこだった。
たぶん、ここが、『なぜわたしにだけ気が見えるのか』という問いの答えになるはずだった。
「その秘密が、『脳波』なのです。脳を持つあらゆる生物には脳波はありますが……ただ、何らかの原因で、ある個体が絶滅の危機を認識したとき、通常ではありえないほどの強烈な脳波が発信されます」
そこまではある程度なら理解できる。
だって、絶滅以上の問題など、生物にあるわけはないから。
けれど、地球上の生物全体でみれば、絶滅危機はあらゆるところで起こっているはずだ。それであればなぜ、進化できる種と、そうでない種がいるのだろうか。
「進化の鍵は、その絶滅を訴えるその特殊な脳波に対して『共鳴が起こり得るのか』ということなのです」




