第354話:シンクロナイズ
「――ヒナ、なの?」
わたしが目の前の少女に問いかける。
彼女はにこりと微笑む。
「ええ、ボディーは別ですけど、心は一緒です。もちろん、リンさんのこともはっきりと覚えていますよ」
「ボディーが別ってことは、前のヒューマノイドボディーを移し替えたってこと?」
「”移し替えた”というよりは、”同期している”という表現が近いのかもしません。オリジナルのボディーは、変わらずルカ様の島にいますから」
そう言って、白色の壁面に映像が投影される。
メイド姿のヒナが、島の世界樹の中の研究室からこちらを見つめている。
「すみません、左眼島の生態系の制御と、動物型アンドロイドの統御の関係で、ボディーが一体では足りなくて‥‥‥」
徐々に思い出してきた。
ヒューマノイドのボディーに、最新鋭の人工知能がインストールされたヒナは、その莫大な演算能力をもって、島にいる無数の動物型アンドロイドを統べていたんだ。
それだけじゃない。ドーム内を完璧な気候に保ちつつ、衛星映像からでも見破られないほどの高精度なホログラフィーにより、島全体をカモフラージュしている。
「ヒナの人工頭脳を司っている、量子コンピューターも相当バージョンアップしているようね。生態系コントロールレベルの並列演算処理を、二島同時にできるなんて……」
十萌さんが感嘆の声を上げる。
すると今度は、画面にカイの姿が現れる。
「ああ。環境要因設定に多少手間取ったが、今では問題なく機能している」
……ということは、カイ本人はまだ、ポリネシアの島にいるということだろうか。
――いや違う。
わたしは、すうっと息を吸って、研究室の奥に向かって声を張り上げる。
「カイ、ガラパゴスにいるんでしょ?遊んでないで、いい加減出てきなさい」
その声に反応したかのように、ぷつっと画面が切れ、奥のドアが開く。
そこから、見知った姿が現れる。
金髪に憂いを帯びた緑青色の瞳。
身を包む白衣よりもなお白いのような肌。
「どうして分かった?」
カイが、少しだけ怪訝な表情で尋ねてくる。
「何言ってんのよ、長年の付き合いでしょ」
「けど、実は俺の本体は左眼島にいて、このボディーはヒューマノイドかもしれないじゃないか」
ルカが表情を崩さず言う。
まあ確かに、これだけ人間離れした容姿であれば、むしろ人型ロボットだと信じ込む人がいてもおかしくないかもしれない。
けれど、わたしに迷いはない。
「さっきからだだ漏れしてんのよ、あんた特有の『気』ってやつが」




