第353話:秘密基地
海底での狩りを終えたハンマーヘッドシャークが悠々と海面へと戻っていく。
すると――。
そこには、不思議な光景が広がっていた。
光差す水面近くで、群れになったハンマーヘッドシャークたちが、ぐるぐると円環を描くように泳いでいる。
それはまるで狩りの成功を祝っているようにも、あるいは私たちの来訪を歓迎しているようにも見えた。
「大型のハンマーヘッドシャークは基本的に群れないはずなんだけど――。どうやらガラパゴス諸島は特別なようね」
同じ個体であっても、住む地域によって行動様式が変わる。
これは、人間社会だけのことではないみたいだ。
「さあ、そろそろ行きましょうか」
ガイドが言うと、潜水艇は再び動き出した。
カイの待つ無人島に向かって。
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潜水艇が着岸したのは、四方を岩石に囲まれた奇妙な洞窟だった。
まるで秘密基地のようなこの場所であれば、確かに衛星の目を避けることも可能だろう。
潜水艇から出ると、ガイドがライトに灯をつけ、洞窟の奥へと進んでいく。
わたしと十萌さんは、足元を気にしながら彼の後を追う。
突き当りには岩壁があった。
サンタクルス島と同じように、岩陰に隠されたモニターにガイドが指を押し付けると、低い音を立てて岩の扉が開いた。
――ま、眩しい。
不意に広がった人口の光が、視界を覆う。
そこには、巨大な研究室と思しき、最新鋭の空間が広がっていた。
奥のドアが音もなく開き、人影が光の中から現れる。
逆光でその姿はよく見えない。
――カイ?
いや、違う。180cmを超えるカイより一回りは小さい。
そのなだらかなシルエットからして、女性だろうか。
その人物は、よく通る声で、わたしたちの名前を呼んだ。
「リンさん、十萌さん、お久しぶりですね」
その声の響きに聞き覚えはなかった。
なのに、その話しぶりはなぜか馴染み深さを感じさせる。
光に目が慣れ、目の前に一人の女性が現れる。
やはり、見覚えはない。
「ルカ様の島ぶりですね」
わたしはようやく悟った。
目の前で完璧な笑顔を浮かべる女性が、実は生身の人間でさえないことに。
ポリネシアに浮かぶルカの島で出会った、メイド型ヒューマノイド・ヒナ。
外見や服装は明らかに南米女性を象ってはいるものの、醸し出す雰囲気が明らかに酷似している。
わたしの脳裏に、ルカ・ローゼンバーグの言葉が蘇る。
「世界で唯一の、”意識と記憶”を有するヒューマノイドであり、”一の女神”に最も近い者……。それががヒナだ」




