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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第23章:エクアドル・種の起源の島へ【2030年2月10日】
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第352話:ハンマーヘッドシャーク

挿絵(By みてみん)


「ハンマーヘッドシャーク!?」

 言いえて妙、というよりもそれ以外に形容しようがない。


 4メートル近い身体はすらりと細長く、普通のサメとほとんど変わらない。

 ただ、頭部だけがつぶされた食パンのように長方形を描き、下からみるとまさに金づち(ハンマー)のようだ。


 潜水艇の中ならまだしも、もし泳いでてあんなのに遭遇したら、驚いて呼吸の仕方を忘れてしまうだろう。


「ああ見えて、意外に草食系なのよ」

 十萌さんが楽しそう笑う。


「それって比喩ですよね?」

 草食系のサメなんて、聞いたこともない。


「ホントよ。ハンマーヘッドシャークの餌の半分以上は、海草だから。魚なんかも食べるけど、人を襲うことはまずないから安心して」


「そ、そうなんですね」

 人は――、いやサメも見かけによらないということか。


「目が長方形の両端にあるから、視野が360度あるの。それに、あそこにロレンチーニ器官が集中していて、砂に隠れているエイや小魚なんかも発見できるのよ」


「ロンチーニ器官?」


「サメなんかの軟骨魚類が持つ、微弱な電気信号をキャッチする感覚器官よ。「サメの第六の感覚」とも呼ばれていて、獲物の筋肉の収縮や、心臓の鼓動さえも捉えることが可能なの」


 ――え、そんな漫画みたいな……。

 思わず突っ込んでしまいそうなレベルの超能力だ。


「生物の世界には、人間には計り知れないレベルの能力を持っているものがいるの。リンちゃんが『気が見える』ようになったことも、もしかしたら自然界全体では誤差の範囲かもしれないわね」


 確かにそう言われると、少しだけ気が楽になる……気がする。


「I found i(見つけたよ!)t!」

 潜水艇を操舵していたガイドが声を上げた。


 同時に、潜水店のエンジン音が消える。

 どうやら、何かを見つけて静止したようだ。


 やがて、艇内のモニターに、ズームアップされた映像が投影された。


 ――ん?

 海底にこんもりと膨らんだ、砂の小山のようなものが見える。


「あそこに、スティングレイが潜んでるようね。エイの一種で、尾に毒のある棘を持っているの」


 モニターを拡大してよく見ると、砂の中に確かに光を反射した双眸が光って見える。

 でも、こうしたテクノロジーなしに、生身のサメが発見することなんてできるのだろうか。


 刹那。

 今まで頭上を悠然と泳いでいたハンマーヘッドシャークの体が、一気に潜水を始めた。


 海底で砂が舞う。

 青い斑点を持つスティングレイが、胸ヒレをバタつかせて逃げようとするが、ハンマーヘッドシャークの速度はそれを遥かに凌駕する。


 反撃を試みるスティングレイの尾が鞭のようにしなり、毒棘が水中を奔る——が、サメの皮膚は厚く、棘はただ浅く刺さっただけだった。


 ハンマーヘッドシャークの鋭く獰猛な歯が、スティングレイの肉に食い込む。

 狩りが完了した瞬間だった。


 わたしは、心の中で突っ込んだ。

 あのサメの一体どこが草食系なんだろう――と。


挿絵(By みてみん)

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