第351話:潜水艇
「ここで降りてください」
バギーを停めると、ガイドがスペイン語訛りの英語で言う。
「私についてきて」
そう言うと、ガイドは一見して道なんてない密林と足を踏み入れる。
「ちょ、ど、どこに行くんですか?」
思わずわたしが尋ねると、
「あの島への渡航ルートは、極秘ですから」
そう言って、サバイバルナイフで亜熱帯の植物を掻き分けながら進んでいく。
――十五分ほど歩いただろうか。
木々を抜けた場所に、その洞窟はあった。
ガイドがランプに灯を点す。
どうやらここに、カイが研究している秘密の島行きの船があるらしい。
「でも、船なんて使ったら、結局上空からバレちゃうんじゃ……」
何と言っても、衛星が地球を覆っている時代だ。
あのルカ・ローゼンバーグの秘島のように、ホログラフィック映像で全体を覆うみたいなことをしない限り、やがて発見されてしまうだろう。
「ご安心ください。衛星の映像が届くのは、あくまでも水面までですから」
そういって、昏い洞窟の壁にひっそりと隠されていた、指紋認証らしきパネルに触れる。
まるでアラビアンナイトの秘密の扉ように、壁がゴゴゴゴと開く。
その先にあったのは、薄暗いランプの光に照らされ黒光りする潜水艇だった。
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「ここまで……やる?」
いくら世界的に有名な島だとは言え、南海の無人島に行くのに、ここまでするとは思わなかった。
水面から半分浮き出ている潜水艇は、それほど大きなものではない。
戦争映画なんかに出てくる原子力潜水艦と違って、5人も乗れば満員になる大きさに見える。
でもだからこそ、隠密行動もしやすいのかもしれない。
「十萌さん、これに乗ったことあるんですか?」
「まさか、初めてよ」
十萌さんが笑う。
「ま、でも、カイさんに頼まれて、メーカーにオーダーをしたことはあったけどね。それが、ガラパゴス諸島で使われてるなんて思いもしなかったわ」
わたしたちが中に乗り込むと、ガイドが船室に入る。
どうやら、彼が船長も兼ねるらしい。
”ヴゥゥゥゥゥン”という低い音が鳴り響く。
その後は、思いのほか静かに水中へと潜っていく。
窓の外が、水しぶきと泡で真っ白に染まり始める。
「電気駆動だから、静音性が売りなの。だから、映画みたいな轟音は響かないわ」
わたしは、再び透明さを取り戻した窓から水面を見上げる。
瞬間、思わず声を上げそうになった。
頭部が四角い、異形のサメが、こちらを見下ろしていたのだ。
「サメの女王、ハンマーヘッドシャークよ」




