第348話:永久氷雪
「せっかくだから、空から見ていくか?」
ジャックはそう言うと、コトパキシ火山の方向へ飛行機の操縦桿を切った。
戦闘機の元エースパイロットだったジャックにとって、民間機の操縦は自転車を漕ぐようなものらしい。
機体を殆ど揺らすこともなく上空を旋回すると、すぐに火山の全景が視界に入ってくる。
「活火山っていっても、周りは牧草地なんですね」
遠目では見づらいけど、恐らくは牛の群れが、緑に染まった大地で平和に牧草をついばんでいる。
「ああ。だが、山頂は6000メートル近い。永久氷雪ってやつだ」
峻険だが柔らかな曲線を描くその山頂は、どこか富士山にも似た端整な美しさを保っている。
――創さんは、あそこで遭難したのか。
あんなところで雪崩に巻き込まれたら一瞬で死を覚悟するしかない。
実際、火山研究の専門家として世界を飛び回る創さんは、幾つもの死線を潜り抜けてきたはずだ。
その度に活路を見出し続けてきたからこそ、今の今まで生き延びてこれたのだろう。
だからこそ、各国の首脳や、あのルカ・ローゼンバーグを前にしてさえも、穏やさを崩さないでいられるのかもしれない。
わたしには、まだまだ覚悟が足りない。
だから、すぐに動揺し、冷静さを失ってしまう。
結果、救えるはずの命が救えなくなってしまうことが堪らなく恐ろしい。
今回の旅で、変わることができるのだろうか。
米粒ほどに小さくなった牛たちの群れを見ながら、わたしは自分に問いかけた。
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二時間の後。
「え、ガラパゴス島って、一つの島じゃないんですか?」
わたしは、飛行機の窓から見える島々を見ながら、思わず声を上げた。
十萌さんがこともなげに言う。
「ええ。合計123島、岩礁もなんかも含めると200以上の島々によって構成されているの。だから、正確には”ガラパゴス諸島”の中に、それぞれの名称の島々があるってわけ」
「じゃあ、ダーウィンが行って進化論を思いついた島も、本当は別の名前なんですか?」
「彼が最初に行ったのが、サン・クリストバル島。後に、フロレアナ島、イサベラ島、サンティアゴ島に向かったと言われているわ」
ジャックが笑いながら言う。
「船しかなかったダーウィンの頃とは違うからな。現在、飛行機での着陸が許されているのは、バルトラ島と、サンクリストバル島だけだ。まずはバルトラ島に飛び、そこからフェリーでサンタクルス島に向かおう」




