第347話:宇宙の柱
「エクアドルって、意外に標高が高いんですね」
街を吹き抜ける涼やかな春風が、わたしの髪をさらった。
スーパーに並んでいるエクアドル産のパイナップルやバナナの印象のせいか、あるいは真夏を想起させる黄色い国旗のためか、勝手に「南国」ってイメージを持っていた。
「キトの標高は2800メートル以上だからね。首都としては世界二位の標高よ」
サラに尋ねると、世界一位はボリビアの首都・ラパスで、標高は3600メートルを超えるという。
「3600メートルって、毎日、富士山の頂きで暮らすようなもんですよね」
全力疾走をしたら、すぐに息切れしそうだ。
「キトもラパスも、アンデス山脈のお膝元だからね。あのコトパキシ火山も、アンデス山脈の一部よ」
指さす先には、冠雪を頂く美しい山が見える。
「コトパキシ火山は、活火山なのに年中冠雪はしてるし、何なら氷河まであるわ」
そう言えば昔、そう言えば昔、エクアドルから戻ってきた創さんが、お土産のバナナチップを齧りながら冒険談を語ってくれたのを思い出す。
「エクアドルの火山で、雪崩に巻き込まれて死にそうになったんだ」――と。
そのときは、大げさなジョークかと思った。
けれど、実際にこの目に見ると、それが現実だと実感できる。
十萌さんが言う。
「アンデス山脈は、ベネズエラからチリやアルゼンチンまで、南米7カ国を横断する、世界最長の大山脈なの。先住民のケチュア族は『宇宙の柱』と呼んで崇拝していたくらいだから、ただただ圧倒的な存在だったんでしょうね」
火山と氷河、そして宇宙。
そうした存在から見れば、確かに人間の存在など塵以下の大きさに過ぎない。
カイたちの気候変動分析によれば、早ければ今年から、氷河期突入への兆候が見え始めるとのことだった。
だとすれば、人はそんなに早く生活様式を変えられるものだろうか。
極寒の地で過ごしてきた民ならともかく、そうでない人達が、そんな簡単に環境に適応できるのだろうか。
もしかしたら、それこそ「進化レベル」の変化が必要なんじゃないだろうか。
そのとき、十萌さんのスマホが鳴った。
「給油完了よ。行きましょう。『種の起源』の島へと」




