第346話:ネオゴシック建築
2030年2月10日 エクアドル・キト
「まるで季節が早送りされたみたい」
わたしは思わず呟いた。
つい半日前まで冬のドイツにいたのに、キトはまるで小春日和だ。
半球を超えてきたのだから当然なんだろうけど、でもやっぱり不思議な感じがする。
「あれが、ヴォト大聖堂よ」
十萌さんが二つの尖塔を持つ壮麗な聖堂を指さす。
「なんだか、プラハで観たヴィート大聖堂に似てますね。名前もそうですけど、薔薇みたいな窓のデザインとかも……」
全く違う街並みや文化なはずなのに、街の中心の聖堂には似通ったものを感じる。
「ええ。プラハのはゴシック建築で、こっちはネオゴシック建築だけど、同じ源流であることは間違いないわ」
「ただ、向こうと違って、ヴォト大聖堂はまだ未完成なの」
「え、でも大分旧そうに見えますけど……」
「建築自体は、1883年代から始められているから、もう150年以上完成していないことになるわね」
「どうしてなんですか?せっかく作ったのに……」
「一説には、こう言われているわ。『この大聖堂が完全に完成したら、世界の終わりが来る』ってね」
――ふ、不吉な。
「逆に、完成させなきゃ世界は滅びないってことかもね」
そう言って、十萌さんが笑う。
このジョークが、ただの冗談じゃないってことに気付いている人は、まだまだ世界には少ない。
「給油までもう少し時間がかかるわ。せっかくだから、エクアドルっぽい食事をしていきましょう。ガラパゴス等にいったら、食事は大分制限されるから」
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「これが、キヌアスープよ」
そう言って、十萌さんはテーブルに置かれた色鮮やかにスープを口に運ぶ。
「キヌア……って?」
「キヌアは、エクアドルのアンデス地域で古くから栽培されている植物よ。高タンパク質だし、食物繊維も豊富な”スーパーフード”なの」
わたしも口に含んでみる。
優しい味わいが口中に広がる。
「なんか、プチプチしてますね」
「不思議な食感でしょ。でも何より優れているのは、このキヌアが、3~4000メートル級の高地でも育つってこと」
――それって……。
「ええ、やがて来る氷河期には、食糧事情は一変する。だから、キヌアのような高山植物が飢餓克服の助けになるかもしれないの」




