第342話:逆転の発想
「ユンと私を同時に救う方法……だと?」
第二人格が茫然と呟く。
久我教授もまた、焦った表情を浮かべている。
「お、おい、十萌。脳内チップのソジュンへの移植は、難しいと言ったはず……」
「バカね。ソジュンまで危険に晒すような手術を、そもそも私が許すわけないでしょ」
そう言って、掌サイズのプロジェクターを取り出し、病室の壁面に投影する。
数コールの後、馴染み深い声が響き渡った。
「リン、ソジュン。久しぶりだな」
憎らしいほど整った顔と、風に揺れる金髪。
ポリネシアの秘密の島で別れたはずの、カイ・ローゼンバーグの顔が、そこには映し出されていた。
*********
「カイ!」
韓国を発って来、ついぞ聞いたことのなかった、ソジュンの明るい声だった。
無理もない。
伝説のハッカーでもあるカイは、ソジュンにとってのヒーローでもあるんだから。
驚いているのはわたしたちだけではなかった。
第二人格もまた、驚愕の表情を浮かべていた。
「――カイ・ローゼンバーグ……。まさか、あの選ばれし”神の御子”か?」
カイの翡翠色が混じった瞳が、氷のように冷たくなる。
――そうだった。
彼は幼いころ、教祖とやらの指示て誘拐され、洗脳を受けそうになっていたんだった。
カイは、初対面の久我教授に挨拶をすると、こう切り出した。
「事情は十萌さんから聞いています。久我教授の術式と、私の技術を組み合わせることで、チップの問題は解決できます。具体的には……」
その先の説明は、正直、専門的すぎて、英語ではよく分からなかった。
いや、多分、日本語で聞いても意味不明だっただろう。
会話が一通り終わると、サラが要約してくれる。
「今回の制約条件は2つなんだ。つまり――」
①チップが脳内に存在し続ける以上、教団による遠隔電波攻撃により、脳波障害を引き起こされる可能性がある。
②長い間、脳内に埋め込まれたチップを無理やり外科手術で剥がした場合、仮に手術自体が上手くいったとしても、第二人格が消えるだけでなく、主人格であるユンの精神までも異常をきたす恐れがある。
ここまでは、今までの説明でも何とか理解はできていた。
ただ、その課題の解決するためのカイの提案というものが、完全に逆転の発想だった。
「私が開発したチップを、新たにユンの脳内に埋めこむのです。そこから発せられる電波により、外部攻撃を阻害するとともに、脳波加速機能も無効化できます」




