第341話:口封じ
――ユンの脳から、人格と記憶ごとソジュンの脳へと移行する?
いくら第二人格が脳内チップによって生まれた記憶だとしても、そんなことが可能なんだろうか?
やがて、第二人格が、”くくくっ”と笑った。
「二千年来、そんな申し出をもらったのは初めてだよ」
「だが、その有難い提案も、今の外科手術の水準じゃ不可能だ。そうだろ、先生?」
そう言って、久我教授に視線を投げる。
「ああ。手術は困難を極めるだろう。人の脳は単なるハードウェアじゃない。仮に無事にチップを移植できたとしても、それによりソジュンや第二人格の“自我が残る”かは、全く予想がつかない。
ソジュンの表情が沈む。
世界最高の脳外科医が不可能というのなら、一体誰なら可能だというのだろう。
言葉を継いだのは、十萌さんだった。
「私からも一つ聞かせてほしい。もし仮に、ユンも第二人格も生き残る方法があるとして、あなたは、これから先、ユンを傷つけないと誓える?」
「ああ。私だって、ユンのことは大切に思っているからね」
十萌さんの声が低くなった。
「それがもし、”魂を支配する者たち”の意思に背く行為だとしても?」
第二人格の顔色が変わる。
葛藤の影が、その瞳に落ちる。
再び落ちた沈黙に、わたしはついに我慢しきれず、声を荒げた。
「どうしていまだに教団にこだわってるの!?今日だって、そいつらに殺されかけたじゃない!」
「終焉へと向かうこの世界において、教団だけが、楽園に導けるのだ――その教義に殉じて死ぬのであれば、是非もない」
「はぁ?教団があなたを殺そうとしたことと、その教義に何の関係があるの?ただの口封じでしょ?」
わたしは一気にまくしたてる。
「そんなあんたの自己満足に、ユンの命を巻き込まないでよ!それで”大切に思っている”なんて、どの口が言えるのよ!!」
激高しすぎて、なんだか息が苦しくなってきた。
そんなわたしの背中を十萌さんが優しく撫でる。
十萌さんは、第二人格に向き合い、真剣な眼差しで見つめる。
「いい?あらゆる組織は、時間と共に必ず腐敗する。確かに、遥か昔は正しい理念があったかもしれない。でも、幹部のあなたさえも粛清しようとする今の教団は、本当に忠誠を誓うべき存在なの?」
「何を綺麗ごとを!貴様らとて、ユンの命のために、私を犠牲にしようとしているだろうが!!」
その言葉を待っていたかのように、十萌さんはにっこりと微笑んだ。
「ユンとあなを同時に救える方法に、興味はない?」




