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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第22章:チェコ共和国・変わり身と城【2030年2月5日】
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第341話:口封じ

挿絵(By みてみん)


 ――ユンの脳から、人格と記憶ごとソジュンの脳へと移行する?


 いくら第二人格(ケルベロス)が脳内チップによって生まれた記憶だとしても、そんなことが可能なんだろうか?


 やがて、第二人格が、”くくくっ”と笑った。

「二千年来、そんな申し出をもらったのは初めてだよ」


「だが、その有難い提案も、今の外科手術の水準じゃ不可能だ。そうだろ、先生?」

 そう言って、久我教授に視線を投げる。


「ああ。手術は困難を極めるだろう。人の脳は単なるハードウェアじゃない。仮に無事にチップを移植できたとしても、それによりソジュンや第二人格の“自我が残る”かは、全く予想がつかない。


 ソジュンの表情が沈む。

 世界最高の脳外科医が不可能というのなら、一体誰なら可能だというのだろう。


 言葉を継いだのは、十萌さんだった。

「私からも一つ聞かせてほしい。もし仮に、ユンも第二人格(あなた)も生き残る方法があるとして、あなたは、これから先、ユンを傷つけないと誓える?」


「ああ。私だって、ユンのことは大切に思っているからね」


 十萌さんの声が低くなった。

「それがもし、”魂を支配する者(教団)たち”の意思に背く行為だとしても?」


 第二人格(ケルベロス)の顔色が変わる。

 葛藤の影が、その瞳に落ちる。


 再び落ちた沈黙に、わたしはついに我慢しきれず、声を荒げた。

「どうしていまだに教団にこだわってるの!?今日だって、そいつらに殺されかけたじゃない!」


「終焉へと向かうこの世界において、教団だけが、楽園(エリュシオン)に導けるのだ――その教義に殉じて死ぬのであれば、是非もない」


「はぁ?教団(やつら)があなたを殺そうとしたことと、その教義に何の関係があるの?ただの口封じでしょ?」


 わたしは一気にまくしたてる。

「そんなあんたの自己満足に、ユンの命を巻き込まないでよ!それで”大切に思っている”なんて、どの口が言えるのよ!!」


 激高しすぎて、なんだか息が苦しくなってきた。

 そんなわたしの背中を十萌さんが優しく撫でる。


 十萌さんは、第二人格(ケルベロス)に向き合い、真剣な眼差しで見つめる。


「いい?あらゆる組織は、時間と共に必ず腐敗する。確かに、遥か昔は正しい理念があったかもしれない。でも、幹部のあなたさえも粛清しようとする今の教団は、本当に忠誠を誓うべき存在なの?」


「何を綺麗ごとを!貴様らとて、ユンの命のために、私を犠牲にしようとしているだろうが!!」


 その言葉を待っていたかのように、十萌さんはにっこりと微笑んだ。


「ユンとあなを同時に救える方法に、興味はない?」


挿絵(By みてみん)

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