第340話:新たな依り代
「やぁ、また来たのかい?」
ユンの顔をした第二人格が、久我教授の後ろついてきた、わたしとソジュン、そして十萌さんの姿を見て笑った。
口ぶりは余裕そうでも、さすがにその顔には疲労が見て取れる。
もしかして、脳への過負荷による頭痛が再発しているのかもしれない。
そのせいだろうか。
彼は単刀直入に尋ねてきた。
「それで、君たちは、私にどうしてほしいんだい?」
十萌さんが、何かを喋ろうとした寸前。
意外にも、ソジュンが口火が切った。
「それより、一つだけ教えてほしい。あんたにとって、ユンはどんな存在なんだ?」
第二人格は、顎に手を抑えながら少し考える。
「難しい問いだな。彼女は、依り代でもあり、子孫でもあり、そして一部だとも言える」
ソジュンが声を荒げた。
「そんな答えが欲しいんじゃない。僕が聞きたいのは、第二人格にとって、ユンがどれだけ大切な存在なのかってことなんだよ!」
「……それはもちろん大切だよ。依り代たる彼女がいなくなれば、私も存在しなくなるからね」
「それは、自分自身よりも?もし、自分が消えてなくなったとしても、それでもユンを生かしたいと思ってるのか?」
ソジュンのドストレートすぎる問いかけに、第二人格の目が、初めてギラリと光った。
「それは……脳内チップを切除し、私の自我を消せと言っているのか?」
今までのどこか達観した態度は消え、声には脅しに近い響きが宿る。
当然だろう。
自分を”殺す”手術をしろと言われて、受け入れるヤツなんていやしない。
「ちょ、ちょっとソジュン……」
思わず宥めようとするわたしの声など、彼には聞こえてはいないようだ。
「あんたの自我は、消えなくてもいい」
ソジュンがそう言い切った。
「そんな都合のいい方法なんて……」
そんなわたしの言葉もほとんど無視して、ソジュンは言い切った。
「僕の脳をくれてやる。あんたは、過去の記憶ごと、僕の身体に移ってくればいい」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
わたしは思わず声を上げた。
その唐突すぎる提案に、さしもの第二人格でさえも戸惑っているようだ。
「それをして、一体君に何の得があるんだ?」
「損得なんて関係ない!僕はユンの命が助かればいいんだ。それ以外何もいらない」




