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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第22章:チェコ共和国・変わり身と城【2030年2月5日】
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第339話:断崖

挿絵(By みてみん)


「脳内…プロジェクター!?」

 聞いたことのない単語の組み合わせに、思わずわたしとソジュンが怪訝な表情を浮かべる。


 不意に久我教授がソジュンの方を向き、こう尋ねた。


「ソジュン。君は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうだよな?」


「は?」

 ソジュンが”何を当たり前のことを……”といった表情を浮かべる。


「では、もし、君が見ている視界全てが、急に韓国の景色に移って変わったとしたら、それでも自分がプラハにいると信じられるか?」


「いや、それは……」

 ソジュンが言いよどむ。


 ――ああ。

 ようやく、久我教授が言おうとしていることが分かってきた。


「つまり、あの脳内チップによって、ユンの第二人格の脳内では、古代ギリシャの追憶映像が流され続けている状態ってことですか?」


 久我教授は言う。

「古代ギリシャだけじゃない。恐らくは二千数百年にわたる前世の”記憶らしきもの”が、だ」


 白髪の病院長が頷く。

「儂とて、医者の端くれだ。患者を救いたい気持ちはある。だが、脳の構造は複雑だ。あそこまで深く根付いた”過去の記(もの)憶”を、脳内チップごと無理やり引き剝がしたら、主人格(ユン)にどれほどの影響があるのかは想像もつかん」


 ――最悪、発狂もあり得る。

 そう、久我教授が低い声でいう。


「で、でも、脳内チップが作動している限り、『魂を支配する者(教団)たち』に命を握られ続けているってことでしょ?」


 わたしたちは押し黙った。


 彼は、脳内チップに電波を送ることで、過電流を引き起こし、脳機能を破壊することができる。

 今でこそ、電波妨害(ジャミング)用の帽子をかぶってはいるものの、帰国すればいずれ隙を突かれるはずだ。


 ――でも、だからと言って。

 第二人格ケルベロスが、自我と記憶を、脳内チップごと消し去ることに賛成するとも思えない。


 どうやら完全に袋小路、というよりも断崖に陥ったようだった。

 もしこのまま進んだら、いずれの道にも破滅が待っている。


 長い沈黙の後、十萌さんが溜息をついた。

「やっぱり、第二人格(ケルベロス)と、直接腹を割って話してみるしかないわね」


 そう言ってスマホを取り出すと、廊下へのドアを開いた。

「私としても、切り札を用意しておくわ。できれば切りたくはないけどね」


挿絵(By みてみん)

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