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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第22章:チェコ共和国・変わり身と城【2030年2月5日】
335/385

第335話:グリューワインとスターアニス

挿絵(By みてみん)


 フランツ・カフカ美術館から出ると、モルダウの寒風が吹き抜けた。

 わたしは、その脳を貫くような寒さによって、ようやく少しだけ正気を取り戻せたようだった。


 出口で待っていた、シモン刑事と十萌さんが声をかけてくる。


 顔面蒼白のわたしを見るや、

「これ、よかったら飲んで」

 と湯気の立つコップを差し出してくれた。


 手渡された赤い液体には、星型の植物のようなものが浮かんでいる。


「ホットの赤ワイン(グリューワイン)よ。温まるから」


「うわっ、なにこれ?」

 匂いを嗅ぐと、瞬く間に複雑なスパイスの香りが、鼻孔を支配する。

 思い切って一口口に含むと、甘くて薬っぽい風味が口中に広まった。


「なんか、わたしの知ってるワインじゃないです……」

 ろくにワインを知っているわけじゃないけど、でも明らかに普通のワインの風味とは違うことくらいは分かる。


「赤ワインに、シナモンや、オレンジ、ナツメグなんかを入れるんだ。中でもチェコっ子のお気に入りは、そのスターアニスだよ」


「僕も飲んでみていい?」

 ソジュンが後ろから話しかけてくる。


 わたしが、コップをソジュンに手渡そうとする――ところをシモン刑事が制止した。


「おっと! 刑事の前で未成年飲酒するなんて、いい度胸だな……」

 笑いながら、わたしのコップを奪うと、手に持っていた別のコップに差し替える。


dětský(デツキー) svařák(スヴァジャーク )っていうんだ。ホットのリンゴジュースをベースに、いろんなスパイスを加えたもんだよ。18歳までは、こっちを飲んどけ」


  ソジュンが不満そうに口をとがらせる。

「チェコでは、年がら年中お酒を飲んでいるって、ネットで見たけど?」


 わたしも、「チェコはビールの一人当たりの消費量は世界一だ」って、どこかで聞いた気がする。

実際、ここに来る途中でも、モルダウの寒風を浴びながらも、平気ビールを乾杯している大人たちを、何人も見かけた。


「だからこそ、未成年飲酒には厳格なのさ。人が一生に飲めるアルコールの量には限りがあるからな」


 確かに、未成年からそんな量を飲み続けたら、あっという間にアル中だらけになってしまうのかもしれない。


 しぶしぶと、デツキー・スヴァ(そいつ)ジャークに口をつけたソジュンの顔は、すぐに驚きの表情(それ)へと変わる。


「な、美味いだろ?チェコっ子は、みんなこれで育つんだ」


さっきまで冷気がしみ込んでいた体が、少しだけ温まってきた気がする。

十萌さんが優しい声でいう。


「さあ、そろそろ病院まで戻りましょう。歩きながら、中での感想を聞かせて」


挿絵(By みてみん)

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