第9話 焦げた車にあったもの
研究所を爆破しようと車両爆弾が突っ込んできたわけだが、警察が随分と早く到着したと思ったら研究所の幹部職員を残して全て帰宅しろと言ってきた。
さっさと帰らないとしょっぴくぞとまで言っているので何をでっち上げるつもりかは分からないが罰金も払いたくないしさっさと帰った方がいいのである。
前科が付くのが嫌なのかというと、人間が作った罪というものは現実に当てはめると意味の無い理不尽なものも多くあるが最近ではAIの発達と国民の監視強化施策によってどこで何を監視されているか分からない世の中になったのでほとんどの人が何かしらの前科は付いてしまっているのである。
―― レジスタンス本部 ――
夏の暑さは日に日に増していくがオペレーターの彼のタバコの吸い殻は灰皿に収まりきらなくなるまで増えなければ止まらない。そう、彼には恋人が長い事おらず夏にカップルを見るというのは地獄を意味する。
おかげな事にこのレジスタンス本部にはカップルはいないのだが夏喜と杏が二人並んでいるのを見ると何とも言えない気分になる事も多い。
「よう。来たな。コイツが夏喜が送ってきた画像を照合した結果だ」
そう言うと爆破された車両の解析結果を見せてくれた。
「車はその辺に走っている車だが自動運転プログラムを書き換えている。後はカメラにハッキングして他の車両の映像を送信していたってとこだ」
今のこの国では車のほとんどが自動運転であり、実際に人間が運転する事はかなり減った。
運転するための免許もあるが取得者は少なく、昔にあったマニュアル車というものは骨董品で免許があっても操作方法が分からないという者が普通になった。
それに運転をしようにもリアルタイムで速度を監視されていて超過したらすぐに速度が落ちてしまうし、カーブを攻めようにも安全圏まで自動で速度調整される。
運転の楽しみというのは一般道では無くなって久しく、楽しみたいなら発展していない国に行くしかないが、VRゲームでのレースがほとんど現実と変わらないまでになったのでそれで満足している者も多い。
「ゲームの中で自爆させ続けて拗らせたユーザーの仕業だったらまだいいんだけど?」
杏は物騒な事を言っているが、この世というのは地獄のようなものなのかもしれないと考えればそれで済んでいるならまだいい。
「それについても調べたんだが、遠隔操作をしていたのはゲームだと勘違いしていたユーザーで、そうなるように騙したのはあの研究所をいつも狙っているテロリストだった」
「なんでそんな手の込んだ事をするんだろう? どうせ捕まるのは時間の問題だというのに」
夏喜の疑問も当然だが向こうも事情が少し変わってきているようで資金源が複雑化しているようだ。
はっきりとはしていないが、どこかの政府が一般人を装ったパトロンとなっているようでこないだVRチャンネルで見た資金集めをしているユーザーよりさらに効率が良いらしい。
そしてそれを受け入れているこの国はもう長らく文句以外の声を上げない民ばかりとなった。
それは他国にとっても腐った政治家にとっても難易度が低い侵略シミュレーターのようなものだ。
なのになぜ、まだ完全に征服されていないのかと言えば、征服するよりもコントロールして搾取する方が楽になったからである。
民草というものは目先のものばかり見て未来を見ようとしない。物事を深く考える事を止めてしまえば騙すのは簡単だ。
それは見識が不足しているという事でもなく、バカにして知識を得ようとしなかった意図しない方向からの詐欺ほど簡単に騙されてしまう事に通ずる。
それを長きに渡り繰り返す事に夏喜の祖父はウンザリしていていつも異世界は良かったのにと言っていたのを思い出した。彼にとってはこの国、というよりこの星は地獄なのかもしれない。
―― 祖父の屋敷 ――
夏喜はレジスタンス本部で得た情報を祖父に伝えに行った。VR空間で伝えればいいのではないかと思うが、祖父であるソフィアの魔力をいちいち使って秘匿チャンネル化するのもあまり効率が良いとは言えないからである。
話を聞いた祖父は伏し目がちに口を開いた。
「ああ。資金洗浄もここまで来たか。あの異世界であればこんな汚い事はまかり通らない。今のこの世は地獄というに相応しい」
今日は夏喜だけでなく杏も一緒だ。祖父の一郎はレジスタンスの事情も杏の事も把握していた。
「う~ん。でも昔に比べればまだマシになったんだよね?」
「マシ……か。まあ、でもな。平成と言われた時代は今より良い事もあった。まあ、俺はロクな事が無かったがな。
金の問題はあの頃も酷かった。若いころは歳を取るにつれて世の中も進化して資本主義は次のステップに進んで貧富の差が無い幸せな世界になると思っていた。
それも幻想で、未だに金を得る事が重荷になっている人と不景気が原因で陰鬱な雰囲気が終わる事の無い国になった。
そう、夏喜も杏も生まれてきたのはそこに金があったというのも理由の一つというわけだ」
祖父の一郎は異世界での夫婦のあり方を話し出した。




