第8話 賑やかな研究所
昨夜に花火大会を堪能した夏喜と杏は良い雰囲気になるのかと思いきやそういう気配は全く無い。
どうするのかは当人らの問題であるが幸せになる事がいけない事であるかのような風潮は目の前にある幸せすら見えなくしてしまう。
夏の陽気は汗と眩暈を引き起こすばかりという嫌な印象になってしまったのはいつからだろうか。気が付かないうちに誰かにそうさせられたのかもしれない。
―― 研究所 ――
こないだの襲撃から多少は警戒しているのか警備員が増員されたがそれでもまばらにしか見えず頼りないというのが最初に見た印象だ。
いくら整体認証を何度もしないといけないようにしているとはいえこの中にテロリストが混じっていたらどうするのだろうか。工作はすぐに成功しそうである。
今日の奉仕活動は夏喜だけでなく杏も一緒だ。学年が違うが一緒にする事もあるので今日はこの二人もある意味、テロリストである。
「この研究所は奉仕活動だからと学生なら簡単に入らせているけど私たちがレジスタンスの構成員だって分かってないってのが何ともいえないよね」
そういう杏に夏喜は言った。
「まあ、僕たちは構成員だとバレていたとしても何をするわけでもないってAIがいつも言ってるんじゃない? でないと入れないと思うし」
「どうだか。それか、この施設の情報を意図的に外に流させようとしているのかもしれないし」
「おっと、巡回ロボだ。話を聞かれないようにしないと」
この施設には警備も兼任している巡回をしているロボットが配備されている。人間と同じようにスムーズに歩き、時には暴漢を制圧する。
あの死んだような目と無表情な顔で殴りかかってくるのはかなりの恐怖だと思うのだが頭に血の登った暴漢にはあまり関係がないようである。
耳の部分には高性能集音マイクが搭載されており、地獄耳どころではない聴力を持つ。その拾った音声データは常に収集されておりリアルタイムで解析されている。
そのため、この二人のような発言は自動検出でもされればもう終わりである。なので日頃から厨二発言を繰り返して分かりにくいようにしているのである。
無言で歩いている二人にはいつもと違う音の車が近づいて来るのが分かった。この辺りは荒野に近いような状態なので道も最低限しか補修されておらず特定のルート以外は走りづらいようになっている。
にも関わらず土煙を上げて近づいて来る車両が一台見えた。
「ねえ、あの車、かなりまずい気がしない?」
「するねえ……今すぐ逃げよう」
そう言うと夏喜と杏は研究所の中に飛び込み、厚い壁に持たれかかり頭を抱えて防御姿勢をとった。
すると案の定、研究所に体当たりし車内に設置されていた爆発物が爆発し一つの区画が炎上した。
すぐに警報が鳴り、警察と自衛隊にも通報が行った。今の日本はテロリストの過激派がそこら中に居るので必要に応じてAIが自動的に通報するシステムが出来上がっており、自衛隊は素早く動けるようになった。
「さて、通報は行ったみたいだけど到着するのはいつになる事やら」
そう、問題は通報システムは出来上がっているが人の動きはかなり悪くなった。この国には必要な人材を確保するという考えよりコストカットを無条件に進めろという思想が蔓延した結果、優秀な人間は姿を消した。
探せばその辺にも居るのだが権力者が好き勝手するし、能力が分かるような行動をとればその能力は搾取される対象となる。
かといって海外に行くという事はもう廃れた。VR空間もネットも技術が発展したので必要が無くなってきたのである。まあ、行ったところで余計に稼げなくなるという情報が素早く回るようになったからではあるが。
農業をするにも遠隔でロボットを操作する事も出来るし、農業シミュレーターと組み合わせればプレイヤーは牧歌的なところで働いている気分にも、暑い南国でのんびり作業をしている気分にもなれるのである。
「おい、怪我をしてないか? 早く逃げるぞ!」
警備ロボットが夏喜らの腕を掴み、逃げるように促す。このロボットも遠隔操作モードがあり、今は海外の元軍人が操作している。この国にはもう軍人が居なくなって久しいのでこういうものが必要なのである。
「助かる! この子を先に頼む」
「ああ、レディは先に助けないとな。嬢ちゃん、行くぞ!」
そう言うと彼は杏の腕を引き、まだ燃えていない方へ走って行った。夏喜はレジスタンス本部から支給された防弾チョッキがあるが爆発がまた起これば危険であるが、警察より先にデータを取りたいので危険を顧みず向かった。
「スキャナの電源を入れるよ。早くデータを取って」
レジスタンス本部のオペレーターに繋ぐとすぐにデータの転送を開始した。
「ちょうどいいタイミングだったな。任せろ」
そう言うとスキャンしたデータの転送を開始した。よくある車両を使った自爆テロではあるが遠隔操作のものがほとんどなので国が回収して行くともう詳細は分からなくなるのである。
臭い物に蓋をするという言葉があるがこの言葉は事実を隠蔽する手段としてはあまりにリスキーではなかったのだろうか。
この国には隠蔽体質が過ぎるところがあるがテロリストの存在を隠して国力を落す手段に使うとは誰が思うだろう。
「……データは粗方、取れたぞ。もう警察が到着する。建物にさっさと入れ」
夏喜は走りながら答えた。
「こんな辺鄙なところにもう来るの? 殺人事件の時より早いよね」
「そりゃ殺人があったという事実より自爆テロがあったという事実の方が重大事案なんだろう。誰かが動画を上げてもすぐに消すしな」
夏喜が建物内に入るとすぐにサイレンが聞こえた。テロリストを隠すために急いで来るとは誰のための組織なのだろうか。




