第7話 夏の虚しさ②
VR空間でも夏の香りが感じられるようになったのは素晴らしい進歩であり、AIアバターを組み合わせる事で理想の恋人とのデートを実現できるようになった。
昔は恋愛ゲームやレンタル彼女といったサービスで疑似恋愛を楽しんでいたが今の時代のAIアバターはプレイヤーの脳に直接信号を送る事が出来る技術の実現により実際に触れた感覚を体感する事ができ、向こうから触れられても同じように感じる事が出来るようになった。
これはこの国が衰退する事になった原因の一つである恋愛の拒絶と悪意ある男女の分断をやめさせようと開発されたもので、疑似恋愛から本物の恋愛へ繋げるという出会いを提供するという目的もあった。
しかし、その開発者の想いも虚しく民衆はVR空間とは違うと区別をし過ぎて不幸を加速させる事になった。
出会いに上手い事、繋げているユーザーも特徴がある。結局はリアルで繋がりがあったりある程度信頼のあるユーザーである事が確認出来てから会っている。結局は一人が複数人と出会うので本末転倒である。
そう、本当に信頼できるのかを確かめる方法は実際に会うしかないのにである。少子化という問題は社会が生み出した不幸の産物であろう。
◇◇◇
戻ってきた杏が青髪のアバターの少女の姿をした男と話した内容を夏喜に話した。
「さっきの人と話して来たけど、撮影サービスを使って稼いでるんだって」
撮影サービスというのはVR空間で提供される中に人が入っているアバターが利用できるサービスでアバター利用者が他者から要求されたポーズ等によって一枚あたりいくらか請求できるものである。
この青髪のアバターの場合、このポーズは幾らで何枚撮ったら何割引きとかランダムで刺激のあるポーズをとったものを撮影しても無料になるといったサービスを提供していた。
これがギャンブル性も持っている事と抽選で二人きりでのデートも出来ると謳っている事から荒稼ぎ出来ているのである。
「なるほどね。お金の有る無しに関係なくギャンブル性を持たせて夢中にさせているのか」
「他にも女の子は何人も居るのに……」
「そりゃ杏みたいに文句を言わない子かどうかなんて見た目じゃ分からないじゃないか。不正をでっち上げられてアカウントにペナルティを付けられても嫌だしね」
「はあ。話しかけただけで文句を言うユーザーが居るなら、このチャンネルに入る時は文句を言わないって一筆書かせばいいのに。お互い不幸なだけだよ」
「それをすると今度はチャンネル管理者が不正に関与しているって言われる。法律でも定めればいいのに政治家は恋愛をする人間が減る方がいいからそれもしない。矛盾したことばかりやってるよ」
そう、せっかくのVR空間でのデートを提供しようというのに現実と似たような問題が発生しているのである。
現実でナンパをしようものなら罵倒される、モノを投げつけられる、警察に通報される。こんな世の中で幸せな出会いを見つけるのは困難を極めるようになって久しい。
現実でも仮想空間でも似たり寄ったりともなると、それこそ目に見えていない部分があるとしか思えない。人類には見つけられていない人との縁の秘密があるのではないだろうか。
◇◇◇
しばらくすると夜空が広がり花火が上がりだした。実に美しい光景であるが今、見えているカップルの何組かは課金によるサービスである事を考えると物悲しいものがある。
杏と花火に見とれているとレジスタンスから通信が入った。
「花火を見ているところ悪いが、あの青髪のアバターはテロリストの集金アカウントだ。こないだ研究所を襲撃した連中と関係している」
「過激派がこんな方法で資金を集めるのはなんでだろう?」
「まあ、今は現金というものが昔みたいに無いからな。発展途上国と言われていた国でも今はほとんどがキャッシュレス決済だ。現金が無いから奪う方法がネットに限られてるってわけだ」
「車を盗んで売ったりとかは?」
「ああ。まだ夏喜は免許を持ってないんだな。今の車やバイクは全てGPSと個人認証が付いているから盗んでも売れない。船で運んでいる途中でしょっ引かれて終わりだ。それに古いものでも付けないといけない法律がある」
そんな事を話していると花火はクライマックスとなった。潮騒を聞きながら余韻に浸る者、リアルで会う事を決めてそのままログアウトする者、そしてお金集めを続ける例のユーザー。
夏喜は杏と一緒に居るからか他のユーザーから睨まれているのを感じ、居心地が悪いのでログアウトする事にした。




