第6話 夏の虚しさ①
夏の暑さというものは開放的な感情を奮い立たせ、恋にレジャーと眩いばかりの太陽と期待を持たせる。
だが、そんなのはもうすでに随分と昔の話だ。八十年前から始まった不景気は止まる事を知らず、この国では景気の悪化が進行していった。
夏なのに空が暗く感じるのはいつからだろうか? その原因の一つは恋愛を否定する風潮でもあった。
人には合う合わないもあれば好みもある。感情で繋がり、フィーリングが合うと言う事は新たな恋に歓びを見出すに十分なものだったはずだ。
しかし、人々は悪意ある風潮を無意識に吹聴されている事に気が付かなかった。異性を受け入れる事を拒絶し続けた社会は止まらぬ少子化とあまりに厚すぎる心の壁を作り出した。
不景気だから、こういう不満があるから、結婚をすると奪われる事が多い。ネットというものはそういう不安要素を常に流し続けられる。
大衆は悪い情報に踊らされる。良い情報というのは詐欺であると勘違いしている。良い情報、金になる情報は他人に言わずに黙っているものだという。
いつから人は他人の善意を悪意と勘違いするようになった? どうしてそんなに善行を嫌う? 人を思いやる心を失えばその先にあるのは崩壊しかないというのに。
―― レジスタンス本部 ――
夏喜はうだるような暑さの中、腐乱臭の漂う裏路地にあるレジスタンス本部へ向かった。ドアを開けるとヤニ臭くすえた匂いが漂う。
これだけ科学が発達したのだから高性能な空気清浄機があっても良さそうなものだが、都市機能が失われつつあるこの区画では設置しても止まる事の無い悪臭には対応しきれなかった。
「よう、夏喜。今日も暑いな」
「うん。暑いね。プールも腐った水を張っているだけのところも多いし、泳ぎたければVRダイブをしろって言うことなのかと思うよ」
「察しが良いと言うか、なんというかだがちょうど配信者と海水浴を楽しむイベントが行われているチャンネルがある。
だが、性別を偽ってサービスごとに金を毟り取っているヤツがいる。コイツを調査してくれ」
「そんなの昔からある詐欺じゃないか。調べてどうすんのさ? それに常にAI解析をかけているんだよね」
「その解析と利用時審査を常にかいくぐっているヤツがいる。金を集めまくっているがその目的は分からん。今回は杏と一緒にダイブしてくれ。ログ取り用にAIアバターも行かせる」
「わかったよ。今回は長くなりそう?」
「なるな。休憩もはさみつつやろう。杏もそれでいいな?」
「いいよ。どんな性悪女なのか確かめようじゃない」
―― 陽の者の集いし砂浜 ――
夏喜と杏はイベントが行われているVRチャンネルにダイブした。男女共に水着姿で夏の眩しい日差しが降り注ぐ白い砂浜にはもう現実世界では見られなくなって久しいナンパを楽しむ若者で溢れかえっていた。
まあ、若者と言っても年齢は分からないわけだが。そんな中、一人のおとなしい青年が日陰でじっと少し向こうにいる男女の姿を見つめながら何やらブツブツ言っている。
「ああ。おかしい。俺の青春はここから始まるんじゃなかったのか。どうして彼女は俺とは会話をしないのだろうか。
……はあ。草むらから飛んできたハエとトンボすら俺を虚無へと誘う。なあ、俺の目の前で交尾して楽しいか?」
夏喜と杏はそんなに話している姿を見るだけで落胆するほどのアバターがいるのだろうかと彼の視線の先を見てみると本部で聞いたのと同じ特徴のアバターを使う者が居た。
青髪に小柄でスレンダーな姿をしており元気が良く甘えたりおどけたりしているのが見える。杏は夏喜にどう思うかを尋ねた。
「ねえ、あの子そんなにモテるのかな? 確かに可愛いけど」
「……杏はあの子、本当に女だと思う?」
「どういう事? 男にしては動きが可愛いくない?」
そのまましばらく見ていると、あざといなと思うところが少ない割に男が喜ぶような仕草が多い。これはそういう事だろうと夏喜は思った。
「男心は男が一番分かっているとはよく言ったもんだ。あのアバターの女の子は男で間違いないと思う。いくらなんでも分かり過ぎてる。
杏が話してみればさらに分かると思うよ。特にどうすればモテるのかという話を重点的にね」
そう言われた杏は彼の元へと話に行った。どうすればそんなに人気になれるのかとかを聞いたところ、親切に教えてくれたがとても杏には出来そうもないほど抵抗のある事をすると効果的だという事を簡単に話してくれた。
これはもう確定だろう。彼は杏を集金のライバルと見ていたとしても女と見ていたとしても出来ない事だろうからと教えてくれたのだ。
そして、どうすればモテるのか? これはいつの時代も男と女ではまるで考えている事が違う。もっとも、彼がどこかの組織の集金マシーンであれば全ての発言は計算して言っていることだろう。




