第5話 魔法を使いたいのだが?
夏喜はVRダイブをすると異世界の魔族領の比較的、中心地に近いところだという場所に飛ばされた。
祖父が言うにはこれは本物の異世界なのでゲームとは違い、命が本当に無くなる場合もあるので十分に注意する必要があるのだというがチートアイテムのようなものがあり、それを持っていると緊急脱出が出来るのでまず命まで無くなる事はないのだという。
聞いた話ではどこからか矢が飛んでくる事があるので注意しろと言っていた。
しばらく歩いていると街の汚い路地に入り、白い猫耳の生えた冒険者のような獣人と出会った。
「おや? 君からはライリーの匂いがするにゃ。ライリーの知り合いなのかにゃ?」
「多分、そうだと思うよ。祖父が異世界で冒険をしていたって聞いたけどその時に名乗っていた名前がライリーだったと思う。でも何でそんなに若いの?」
「それは私が妖精だからだにゃ。見た目はこんな少女って感じだけど、五百歳くらいだにゃ」
「そうなんだ。祖母も年を取らないし不思議なもんだなあ」
「おばあちゃんがいるのにゃ? 名前は何にゃ?」
「ソフィアって言うんだ」
「おお? ライリーを追いかけて向こうの世界に行ったと思ったら結婚したのかにゃ。よかったにゃ」
「世界を超えた愛って素晴らしいね。ところで僕は今日は何をすればいいと思う?」
「何か目的があって来たんじゃないのにゃ?」
夏喜は祖父にこの世界に時々ダイブ装置を使ってやってきていること、この世界に来て洞察力を鍛える訓練をしている事について話した。
「なるほど。洞察力かにゃ。この世界では魔法があるけど、魔法を使うには魔力エネルギーを扱う必要があるにゃ。
そして扱うためには、何が必要か? 一に瞑想、二に瞑想にゃ。精神を統一して精神修行をする事が最も重要で手っ取り早い方法なのにゃ」
「う~ん。ならここで出会ったのもせっかくの縁だし瞑想をしようか」
夏喜が瞑想をしたいというので、白猫の妖精であるクレールは夏喜を瞑想に適した山に連れて行った。
この日は都合よく晴天で気温も安定しておりそよ風のふく心地よい丘は瞑想に最適な場所であった。
早速、瞑想をはじめると夏喜は徐々に視界が白くなっていきこの世のものとは思えない美しい丘が現れた。
今いる丘とは次元の違う美しさでガゼボがあり、そこに絶世の美女という言葉では言い表せないほどの美女が座っており手招きをしていた。
もしかしたら何かのトラップかも知れないが夏喜は美女に招かれるがまま歩いて行った。頭の片隅には何やら怪しいなと思う気持ちもあるのだが心地よさに包まれた感覚と軽すぎる足取りはもう止める事の出来ない好奇心となって突き進む事になった。
「ようこそ、夏喜さん。ここはあなたのいる世界とも異世界とも違う世界。なんとなく想像はついているとは思いますが」
「はじめまして。元の世界とも異世界とも違う……? もしかしてあの世とかですか?」
「あの世をどう定義するかによりますが答えとしてはかなり近いものかもしれませんね」
「意地悪な美人さんですね。今までの人生で出会った中で一番の美人なのに」
「それはありがとうございます。さて、あなたは元の世界では難しい問題に挑んでいますね。世の真理とは踏み込んではいけない部分に踏み入るとともに想像力、洞察力ともかなり高いレベルのものが要求されます。
今日、この世界に来たのはこのためだったのでしょう。この世界から覚めてから現実に戻った夜、寝ている時にあなたの洞察力を高めておきます」
「そんな事ができるのかなと思います。カンがかなり鋭くなるという事ですか?」
「簡単に言うとそうですが、必要に応じて脳内にイメージ映像のようなものが流れやすいようにします」
「ああ、ビジョンの事ですか」
「そう。それはきっとあなたの今後に役に立ちます」
「どうせなら魔法が使えたらなと思ったんですけど?」
「確かにあなたにはこちらの世界の人間の血が入っているので使えはします。ですがあなたのいる世界では魔力エネルギーが圧倒的に不足しています。こちらの世界とは理が違うので使えません」
「え? じゃあソフィアばあちゃんはどうして使えているんです?」
「彼女も時々、こちらの世界に来るのですがその時に体内にエネルギーを溜め込みます。そしてそれは魔法を行使するためではなくこうしてダイブ装置にエネルギーを注ぐために使われます。
言わば魔法エネルギーであって魔法を行使するためのエネルギーではないという事です」
「う~ん。何かこんがらがって、よくわからなくなります」
「まあ、分かったところで仕方ないといえばないのですが。魔法を使いたいなら他のゲームでどうぞ。そして、どうしても本物の魔法を使いたいなら来世でこちらの世界に転生すればいい事です」
「僕はまだ十七なので気の長い話ですね」
「寿命を迎える頃にはどうでもよくなっているかもしれませんね。そろそろ時間のようです。ではまたの機会に……」
聖女のような女性がそう言うと、夏喜は光の世界から吸いだされたような感覚になり瞑想から覚めた。
「何か得られるものはあったかにゃ?」
クレールに尋ねられた夏喜は瞑想をしていると違う世界に飛んだ事、寝ている間に能力を授けてくれる事になったことについてを話した。
「それはきっと役に立つにゃ。洞察力って年を取らないと得られにくいものだから早くに得られたのなら大切にして育てる事にゃ」
そう言ったクレールは何故か少し寂し気な顔をしていた。
丘からは美しい夕日が見え、そよ風が哀愁を誘う。街の家の煙突からは煙が出ており何故か心に寂しさを覚えた夏喜はそろそろログアウトの時間ではないかと思っていると光に包まれだした。
「クレール。今日はありがとう。次に会う事があれば猫の姿も見せてよ」
「わかったにゃ。ばいにゃ!」
◇◇◇
ダイブ装置から目覚めた夏喜は祖父の家を後にした。




