第4話 異世界と繋がれしVR空間
夏喜には異世界人の祖母がいる。彼女は齢七三にもなるのにどこからどうみても二十台にしか見えない若々しさである。
祖父の方はというと、多少は若くは見えるがどう見てもおじいさんである。夏喜は未だに信じきってはいないのだが祖父が旅した異世界というのはこの地球よりも遥かに進んだ魂の人類が暮らしている世界なのだという。
しかし、王国という国がそうなのであって悪魔が巣食う土地に近づけば近づくほど人間性も悪くなっていくのだという。
その悪魔が巣食う土地が今のこの国とよく似ていたらしく、祖父はこの国に帰ってきた事があまりにショックでしばらく放心状態だったという。
それからほどなくして祖母も向こうの世界からやってきた。そこからは向こうの世界で手に入れた知識と祖母が不思議と使える魔法を使い、事業を起こして今ではそれなりに良い屋敷に住んでいる。
―― 祖父の屋敷 ――
夏喜は昨日の討論会の事を祖父に話すとやはり地球では向こうの世界のような仕組みはまだまだ実現できそうもないなと言っていた。
AI技術に関してもそうである。祖父は向こうの世界では一応、軍人としても活躍していたのだが、そこでは敵の動きをかなり正確に予測するAI技術を応用したような魔道具があったそうだ。
問題のある国に行けば王国と通信をして魔道具にどうすればいいのか聞くと、何をすれば良い状態に出来るかも正確に予測し、最適解を示した。
困っている人がいれば、助ける方法を示した。隠れた才能が無いか調べて欲しいと言えば正確にそれを示し才能を使える仕事に着くことができ、幸せな日々を過ごせた。
しかし、この世界のAIではそうはいかない。何故なら完全な善意のみでは作れないからである。
資本主義経済というものは欲望を実現せずにはいられない人類にとっての重荷のようなものだと祖父は言う。
「金というのは天下の周りものとはよく言ったもので、うまく回っていればみんなが幸せになれるがどこかで滞れば不幸な者が生まれ、稼ぐ事が人生の重荷になる。
向こうの世界の王国では金に困らないようにする徹底した仕組みがあった。皆が笑顔で幸せな日々を送っていた。もうこんなジジイになってしまった俺は戻ったところでとは思うがな」
「だからあの論客も海外で働く人を増やす事で自分の評価もあげられるし、金持ちは自分たち家族だけ幸せなら未来永劫、幸せになれると勘違いしているわけだね?」
「そう、重荷である事を理解しながらそれを中々、手放さないのが地球人だ。だが一方的に手放せとだけ言うのは残酷な事だ。
世の仕組みが手放せなくしているからだが、俺は若い頃に気が付いて何十年も経ったのにまだそれは変わっていないなと思う」
時代が進んでもお金から解放される世の中というのは実現されるまでにまだまだ時間がかかりそうである。
祖父は今となっては信じられない事だが異世界に行く前というのは女性と縁の無い日々を送っており悲しみに暮れた人生であったのだという。
ある企業でそれなりの責任ある仕事を任されていたのに嫌がらせばかりで耐えかねて辞めたのが転機となったのか異世界に招かれたのだという。
そこでは日本での日々とは打って変わってモテてモテて大変だったらしい。そう、資本主義とは恋愛にまで暗い影を落していた。
デートをするのに金がいる。奢るのはどっちか? 車は持っているか? 良い車か? 仕事はどうか?
この問は残酷な問である。どうして愛で繋がりあうはずの男女の間に金があるのだろうか。それが無ければ寂しい思いをして苦しむ人は少ないのかもしれない。成功者ならイケメンという補正がかかるのであればVR空間のイケメンは何だと言うのか。
偽りのイケメンが成功者であり無条件にモテるものなのだろうか? 祖父はある種の職業の知り合いの知り合いが居たそうだがどこをどう見てもモテないし、普段から酷い発言を繰り返していたのに同じ職場の女性らと何人も関係を持ち続け、その様相はまるでスタンプラリーを埋めるかのような手の出しようだったという。
お金も持っているがその金は高級車を車検の前に買い替える事にも使われていた。そして新車を買って駐車場に停めていた時に自分の車を見つめている買い物客を指してこう言った「あんな貧乏人にはなるな」である。
夏喜には日頃からこの知り合いを引き合いに出しては「歳をとると学生の頃に告白しなかった事で後悔する事になる。付き合いたいと思った子にはなるべく早く声をかけ、告白する方がいい」と言っていた。
自分に自信があろうが無かろうが恋人に恵まれるかどうかは他人が何を言おうと見えない世界でのやり取りのようなものがあるのではないかと言っていた。理屈では説明できないものが多いからである。
話も一区切りしたところで祖父はいつものようにダイブをするのかと尋ねる。夏喜は未だに半信半疑なのだが、祖父が所有するVRダイブ装置は大がかりなものとなっており、祖母が時々エネルギーを注入している。
このエネルギーは魔力とも宇宙エネルギーとも言われるものだそうだがこれが異世界とVR空間を繋げる媒介になっているのだという。
夏喜の祖父はこのダイブを繰り返す事によって異世界を体験し洞察力を鍛える事が出来ると言っている。
洞察力を鍛えるという成果は出ているがダイブしても中世の異世界ファンタジー世界が広がっているのでゲームとの区別は難しいのが難点である。
夏喜は装置に横たわり、異世界だという世界にダイブした。




