第2話 レジスタンス
レジスタンスとテロリストという二つの呼び名があるがこの言葉は人によって解釈が異なる。
人々というのは、ある活動家らに対し自らの都合の良い方の呼び方を一般にする傾向があるが果たしてそれは真実に照らし合わせて判断されたものなのだろうか。
殆どの人間は偽りの真実を目の当たりにした時、上辺を見ただけで理解しているという勘違いでそう呼んでいるに過ぎないのではないだろうか。
今のこの国には物事を深く考えられる人間というのは酔狂な人間であると思われたり、ありのままの事実を話す事がおかしな事だと言われたりと誠実な人間というのはある時から勘違いされ、陥れられる対象になっている。
それを間違っている事であると言えば人が離れる。こんな不幸な事があるだろうか。
―― ある路地裏 ――
かつて、東京という街は希望に満ちた夢を叶えるためのステージだと言われていた頃もあったそうだが今となっては清潔な街にはなったがそれは見た目だけの話だ。
夏喜の祖父の一郎は存在自体がオカルトであり、祖母に至ってはまるで異世界人がやってきたようにしか見えない。
というか、本人らもそう言っている。祖父は異世界帰りの日本人で、祖母は異世界からこの世界にやってきて、祖父と念願の結婚をした。
祖母はいつみても若々しく、会うたびにドキドキするほどの美人だ。何でも向こうの世界はこの世界と時間の流れが違っていて、向こうの方が早いのだという。
その世界から来たという祖母はその世界の時間の流れで生きていたのでその生命エネルギーというのはこの世界に来てからも有効であり、そのためにこの世界の人間と比べて老化が極めて遅いのだという。
そのため、祖母が言うには単純に計算すると異世界で生まれてすぐにこの世界に転移してきたという場合、三百歳くらいまで生きるかもしれないと言っていた。
問題があるとすればもう祖父は九五歳になる。異世界でしばらく過ごしていたにしてもそろそろ寿命かもしれないと言っていたのだが二人ともかなり仲睦まじいのでその後は異世界に帰るのだろうか。もし、帰るのなら帰るところを見てみたい。
―― レジスタンス本部 ――
路地裏をしばらく歩くと古い雑居ビルにレジスタンス本部がある。このレジスタンスは一体、どんな活動をしているのかというと人々にVR技術とある種の薬によって偽りの幸せの中で生きているという事を気づかせる事が目的である。
確かにVR技術は素晴らしい。不幸な人生を送る者はひと時の幸せを手に入れる事が出来るし、そうでない者にとっても実際に出向く事無く感覚共有デバイスによってその場に居るような感覚を味わう事が出来るのである。
だが、この技術を悪用する方法はいくらでもある。昔は画面の文字や動画を見てその情報を鵜呑みにさせる方法が一般的だったが今はその技術がさらに進化している。
昔も見たい動画、見たい情報というのは個人のアカウントから情報を集め、好みにあったものを優先的に見させていた。
その結果、人間関係も目にする情報も徐々に狭まって行きせっかくのネットの恩恵が薄れて行き井の中の蛙の状態となっていった。
そして、それは日常の生活にも影響を及ぼし、似たような思想、年齢、世代の者が集まる要素を強くしていった。
世界を見るための道具が世界を狭める道具になっていき、しかもその中では間違った情報が常に流れ続けるというムラ社会を形成されていった。
もちろんそれに気が付いていれば良いのだが昔から詐欺師は嘘に事実を混ぜるという言葉の通りその巧妙な手法は個人的な憂さ晴らしから陰謀論にまで至る混沌を生み出した。
人は刺激的な体験をするとそれが事実であるとより思い込みやすくなる。それを実現するにはVR空間というのはうってつけであった。
今日もメンバーはVRスペースに入り込み、怪しい活動者が居ないかを探っていた。
「よう、夏喜。今日は早いな」
メンバーの一人が言った。彼はここに長く所属しているメンバーで情報収集のエキスパートである。
彼の部屋は小汚く、古びた壁にはシミがありモニターの横の灰皿にはタバコの吸い殻の山が出来ている。
「うん。もう知っていると思うけど研究所に野砲が撃ち込まれてね。さっさと帰れと追い出されたよ」
「ああ。そういう事か。あの研究所は役人にとって金の生る木の一部なのに手がかかる国にとってのお荷物のフリもしないと国民を欺けない」
「そして、それを知る活動家は研究所に攻撃を仕掛ける。あそこが無くなったところで魔窟が無くなるわけではないのにね」
「お前も分かってるじゃないか。この国の病巣は動かぬ国民とそれを生み出す支配階級にある。いくら活動家が動いたところで、全体の意識が変わらないと良くなることはない。だろ?」
昔は活動家は冷めた目で見られる事も多かったようだが、世のため人のために動いていればある程度は評価される事もあった。
だが、ほとんどの大衆というものは自分の事しか考えていないものだ。
「さて、夏喜。ちょうど今からダイブしてほしいチャンネルがあるんだが、行けるか?」
「うん。行けるよ。冷蔵庫のエナドリ貰っていい?」
夏喜はVRダイブ用の首輪を付けるとベッドに寝そべり、電子の世界へと潜った。




