第19話 地に落ちた信用
嘘というのは回数を重ねれば重ねる程、信用を無くすが自分の心についた嘘というのは生きる気力を失わせる。
世間体のため、みんなやってる事だから、自分だけ違うと嫌われる。言い方は色々とあるがどれをとっても良い言葉ではないし、心に毒を流すには十分だ。
例の議員であるが、テープで縛られ自白剤を打たれたその姿はどんなリアリティを追及したゲームで見た演出よりも迫力があった。
夏喜らはVRゲームにおいてはネイティブな世代だが、ゲームではどんなにリアルで迫力のある演出をしても現実ではないのでドキドキするくらいだろうが目の前の現実は違った。
死の恐怖のストレスで口からは反吐のような悪臭が言葉を発するたびに放たれ、注射の匂いに打たれた直後の議員の目つきの急激な変化に呂律の回らない話し方。
現実の拷問を目の当たりにした夏喜と杏の二人は口を開けたまま震えるしか無かった。
その後、どこかに通信をした傭兵はもう用済みだと議員の頭を銃で撃ちぬいた。テロリストメンバーと議員を全て車に押し込み、谷から突き落とした。
元々、無い信用ではあっただろうが彼を信じて投票した住民がいたのだとすればそれは無関心が招いた罪であり、自らの人生を追い込む甘くない毒汁ではないだろうか。
―― 輸送車内 ――
傭兵らは議員とテロリストらを押し込んだ車に爆弾を仕込んで谷から突き落とし、爆破した。悪徳議員共々、自らが作った自動車爆弾で焼かれるとは皮肉なものだ。
先ほど、助けてくれた傭兵が輸送車の運転をしている。道が悪いのでガタガタと揺れているがポケットから何かが落ちたので夏喜が拾い上げた。
「あれ? このIDって……」
「お? 見られてしまったな。まあ、俺たちみたいなのが介入しないといけなくなるほど落ちぶれたって事だ。
さっきの議員も言ってただろう。あの国と繋がっていて日本のインフラを爆弾で破壊しろって指示をされていたってな」
そう、もうこの国は既に大国の設定したレッドラインを超えた。国民の無関心は止まる事を知らず他国の侵略を実質的に許してしまった。
彼のように傭兵を装った捜査官が実力行使をするというのは手を尽くしてもどうにもならなくなった場合にとられる手段だ。
「何となくそんな気はしていたんだ。やっぱり捜査官だったんだ」
「ん? どこでそう思った?」
「傭兵にしては手際が良すぎるし、僕たちに盗聴器も付けてくれたんだよね?」
「ああ、そうだ。口を開けてガタガタ震えてたわりによく見てるじゃないか」
「助けに来てくれるタイミングが良すぎたと思ったんだよ」
「あれはこういう作戦をする時の基本だ。運悪く、都合の悪い奴らが現れるってのはよくある事だからな。虫の知らせって言うだろ?
だから車両に予備人員も待機させていた。そこでお前らの様子も見ていたってとこだ。隠れてイチャイチャするのかと思ったがしなかったのでつまらないなと思っていたら議員が現れた」
「じゃあ、あの議員の拷問は予定に入ってなかったんだ」
「そうだ。予定では車両爆弾ごと奴らを始末した後に議員を誘拐して拷問するプランだった。だが、こうして拷問するにはもってこいの場所に現れたのでやったってとこだ」
「そういうことだったんだ。じゃあ、観光でもして帰るの?」
「観光か。それもいいな。まだ寿司屋とラーメン屋くらいはあるんだろ?」
「あるよ。レジスタンス本部の近くにもボロボロの古いラーメン屋があるし綺麗なところなら都心かな」
「古いラーメン屋の方が美味いんだろ? 綺麗なところは何処もインスタントだって聞いたぞ?」
「そうだね。綺麗な店はどこかの系列だったりするし濃縮したスープを溶かしているところばかりかな。でも、美味しいのは変わらないよ。個性はないけど」
「チェーン店は俺の国にもあるからその古い方に行きたいな」
「いいけど、位置情報をあなたの端末に送ると都合が悪いんだよね?」
「いや? いいぞ。私的利用がいけないなんて端末を捜査官が持ってる意味はないだろ?」
「それもそうか」
そう言うと夏喜は位置情報を彼の端末に転送した。どこかの会社に勤めていれば、社用端末というものを持っている者もいるだろう。
だが、いちいち使った内容を確認されては文句を言われるので私的利用ではないと思ってもそう扱われて不当な扱いを受ける事も少なくない。
この考え方もこの国が衰退した原因の一つだが否定する者が実に多い。決まった事だからとか、暗黙の了解だからとか言うがそれに何の意味があるのか? 端末も人間も価値を落とすだけだろう。
―― 山道のトンネル内 ――
しばらく走ると山道のトンネルの中で車両が止まった。
「あれ? 何でここで止まったの?」
「お前らをこの車で運んでいるのを見られてもいいのならこのまま進んでもいいんだがな?」
「ああ、そうか。何かに映っているかもしれないよね」
「そうだ。このまま待機し、夜明け近くになるとトレーラーが来る。それに車両ごと乗せて運ぶ。その恰好のまま帰ったらお前らは公安に捕まるだろうしな」
そう言われた夏喜らは普段着に着替えてトレーラーが来るのを待った。




