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第20話 拝金主義空間①

 金を得るために金を使う。お金で愛は買えない。金を積んでも人気になれない。これは世の真理だが、国によっては結婚する時に予め揉めないためにお互いの稼ぎや貯金をどうするかを話し合ってから決める。

 この結婚前に話し合って金について決めるというのは資本主義が招いた人身売買の完成形のような気もするが非常に慈悲に満ちた考えだと思う。


 というのも、そういう事を話すのは無粋だと言ったり愛ではないと言って曖昧にしたり誤魔化して結婚する輩がいる。

 その悪意の結婚を見抜けなかった結果は、思いやりや愛情という言葉は全く無い残酷な地獄を与えられ人生の墓場は無限に続く戦場となる。


 愛とは無償の愛であり、見返りを求めない心の事を言うがそれを理解できている人間と実現出来る人間が増えなければいつまでも地獄のままだ。


―― VR空間 ――


 戦場帰りの夏喜と杏はVR空間の殺伐とした雰囲気にウンザリする事もあったが漏らすほどの緊張感に比べれば天国であると思うようになった。

 だが、この天国は幻想でありアバターの姿も仮初である。夏喜と杏の二人は今日は新たなVR空間サービスである結婚をしたい男女が利用するデート、同棲生活の疑似体験が出来るところへ来た。


「さて、杏とは夫婦じゃないけどこれから調査のためにくっついたり離れたりしないといけないわけだからAIアバターの準備もしていこう」

「うん。夏喜とは夫婦じゃないけど準備をしっかりしないと結婚詐欺を見抜けないからね」


「結婚詐欺?」

「そうでしょ? 今日は資金源にしているアバターの調査だし」


「結婚まで約束すると行政処理が発生するからこのチャンネル内だとできないんじゃない?」

「え? そ、そうだったね。忘れてた」


「あれ? でも考えて見れば行政処理が入る先のデータを偽造していれば成立するのかな?」


 モニターしているレジスタンスのオペレーターがこれに答えた。


『まあ、婚姻届けの送信先を偽造すれば可能ではあるがそれだと数を稼ぐには効率が悪い。バレた時の処理も手間だし、またチャンネルに入り込むのも面倒になるだろ。

 そうなると、常識的に考えてデートの段階でポイントを大量購入させて換金が可能なチャンネル内アイテムを貢がせるってとこだな』


「アイテムかあ。何があるかな?」


 夏喜らとオペレーターはアイテムリストを眺めてみたが厄介な程に換金可能なものが多い。AIアバターの起動と準備が出来たので詐欺師が好みそうなものをリストアップしてもらった。


『このチャンネル内のアイテムの交換状況は秘匿されているため把握できる範囲は口コミ等からとなりますが最も流動的で分かりにくくなるのはこのコミュニケーションチケットでしょう』


 昔からある集金システムにつきもののチケットという概念だが、このチャンネルでもそれを取り入れている。

 一定額を支払えばチケットが買えるがこれを使って気になる異性と例えばデートをする場合、ロケーションごとにチケットが必要となる。


 場所やそこで何が出来るかによってチケットの枚数やポイントは異なるがキラキラした空間ほど高くつく。

 これは見栄と自己顕示欲を刺激し、撮影機能と撮影サービスを利用させ自分はモテているという虚栄を満たす事が出来る本当の姿を隠すための優れたシステムだ。


 さらにこれをSNSに投稿すれば便利に使いまわせるエコシステムが完成する。チケットを異性や他の利用者から大量に貰う事が出来ればそれはまさに配信者やアイドルの概念を組み合わせた集金システムとなる。

 そう、もしこのチャンネルが何らかの理由でダメになったところでその大金は手元に残る。しかし、それは勝者のみに与えられるものだが大量のチケットを購入できる者と無数のチケットを得られた者。隠された姿の先にある真の勝者はどこにいるというのだろうか。


 しばらく相手を物色していた夏喜と杏だが、杏はうだつの上がらないイケメンアバターと出会った。


「こんにちは。君も婚活に来たのかな?」

「うん。そうだけど、あなたもそうなの? 随分と美麗系のアバターを使ってるけど」


「婚活には仰々しいかな?」

「それも個性だからいいと思うけど、声はかけにくいかな?」


「キミとは話が合いそうだ。向こうに喫茶店があるから一緒に話さない?」

「いいよ。行こう」


 そう言うと二人は近くにあった喫茶店に入った。ここでもチケットが必要だがこのイケメンが出してくれた。


「キミみたいな子とご一緒出来て嬉しいよ。付き合ってくれてありがとう」

「ねえ? 私のどこがそんなに良いの? 教えてよ」


「さっき、個性だからいいけど声はかけずらいって教えてくれたよね。他の人は君みたいに聡明な人はいなかったんだ」

「え? 縁がないんだね。可愛そう」


 随分と腰の低い男だ。美麗モデルは伊達ではないといいのだが。彼がアバターと遜色ない男であれば、世の悪意に翻弄されている者の一人だろう。

 男女の分断という悪意に気が付かないまま毒された者らは自立をするという意味をはき違え異性を拒絶して金を稼ぐ事、地位を誇示する事で自らの価値を証明しようとした。


 だが、それは孤独と絶望を生み出す幻想であり目に見えない人間性という部分は表面的な醜さとなって表出した。

 本来の男女の自立という意味は、相手を思いやりお互いに切磋琢磨しあう関係の事を言う。支配、独占、依存といった言葉とは真逆の意味だ。


 人間が操作する以上、VRアバターも人類の醜さを全て隠す事は不可能だが騙される人間が絶えないのは騙されてもいいと思える人生における恋の終わりが見えてきたからではないだろうか。

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