第17話 正義と正義感
他人に思いやりを持って手助けする事は素晴らしい事だが、この国ではそれをする事は裏があると言われる事が多い。
心が貧しくなると、それに伴って経済状況も貧しくなる。それが蔓延したこの国ではもっともらしい理由を探しては誰かやシステムを批判し、それが正義だと信じる者もいれば悪意を持って利用する者もいる。
そして、先を行く者はそれは醜い人間が見せている幻想である事を見抜いているが真実を理解しようとしない民衆は彼らを出る杭として攻撃し、叩きつける。
資本主義とはどこまでも人を苦しめ、一握りの人間が富を独占する事でしか成り立たない事を異世界で学んだ祖父は夏喜にレジスタンスに関わる以上、昔から変わらない世界とこの国の病巣をいつも意識して行動するように言っている。
そう、世の悪事の多くは何らかの形で金が関わっているからだ。風説の流布は昔は動画が主だったが今はVR空間でAIアバターを使い、洗脳に近い形で見る者を夢中にさせる。
現実が苦しいからVR空間で理想の恋人や仲間と楽しい時間を過ごしていたと思いきや、AIアバターを装った他国のアルバイト工作員や貧困国の外貨獲得に利用されていたりするのである。
世の地獄から逃れるための天国はそこに無く、偽りの幸せが待ち受ける。新作ゲームが開発されればそれは新たな集金システムと化すのである。
―― 某県 某所 ――
廃墟と化した町にあるのは割れたアスファルトに崩れた建物が並ぶ光景だった。夕日が照らすその光景は哀愁ではなくこのまま枯れ行く国の未来ではないだろうか。
レジスタンスは某国の傭兵に事情を説明し、パトロンになりそうな政府関係者の情報を提供し焚きつけて儲ける事を提案した。
すると十名程の傭兵が集まり筋骨隆々の彼らは夏喜らと件のヤードに到着した。今回はアンドロイドを使うと足が付く可能性が高いので偽造パスポートを使って入国した人間が担当だ。
「ガキが大掃除の手伝いか? そんなに金に困ってんのか?」
傭兵に尋ねられた夏喜は答えた。
「ううん。僕はこの国がこのままどうしようもなくなっていくのをどうにかするためにレジスタンスに入ったんだ。金のためじゃないよ」
「なるほどな。それは殊勝な事だが今回は実戦だ。流れ弾に当たれば死ぬ」
「こないだ研究所に自動車爆弾と迫撃砲が撃ち込まれたけどその時にいたから少しは慣れてるつもりだよ」
「ああいうのはパフォーマンスだから誰かを殺す事を前提にしてないのは知ってるな?」
「うん。今日は殺す前提なんだよね。僕たちはサバゲ―をしているフリをして周囲を警戒するのが仕事だから近づかないでおくよ」
「分かってるならいい。これから俺たちが使う装備は全てサプレッサー付の銃、ボウガン、ナイフだ。
敵の装備は見たところ手作りの拳銃とライフルってところだな。サプレッサーは付いていない。フリをするなら覚えておけ」
「わかった。じゃあ、僕たちは向こうに行くよ。あとはよろしくね」
「ああ。奴らに気づかれないうちに全て始末する。だが、お前らも同じ目に遭うかもしれない事は忘れるな」
夏喜らがある程度、離れたところで傭兵らはヤードの壁の隙間から中に入って行った。なぜ夜に忍び込むのではなく夕方なのかというと夜は衛星画像を見られると光るので何かをしているのがバレるので昼間にやっているわけである。
なら昼間にすればいいのではないかと思うがそういうわけにもいかないのが、夕方から夜にかけてこのヤードに作業をしているテロリストメンバーを回収に来る者がいるのでその者もまとめて始末し、死体は車に詰めて崖から落として炎上させるという算段である。
夏喜らがヤードから離れたところの廃ビルに隠れたところで掃除が始まったのか、銃弾が鉄板に当たったような音が聞こえたが、ビルの壁が崩れて落ちたのでその音だったのかもしれない。
流石はプロの傭兵だ。夏喜らには戦っている気配も感じさせない。
「静かなもんだね。何も聞こえない」
「うん。このまま何事もなく終わればいいんだけど」
すると草が擦れるような音が聞こえ、足音が近づいて来た。小声で夏喜は言った。
「なるべく見られないようにしないと危ないかもしれない。様子を見よう」
「了解」
足音の主を見ると、何と例の議員ではないか。わざわざこんな所に来るとは何と自信過剰な事だろうか。
それに不穏な秘書とボディーガードのような男がいる。夏喜と杏は命の危険を感じ、震えが止まらない。
震えで音を出したら終わりだが息をひそめて会話を聞こうとした。録音はまさか現れるとは思わなかったので準備が出来ていないがどちらにしろ操作する事自体が危険過ぎる。
「私は知らぬふりをしているが彼らは兵器を作り、贅沢が出来る。金が貯まれば国に帰るなり世界旅行をするなり好きに出来る。この善意に満ちた循環は実に素晴らしいと思わないか?」
「全くです。この破滅に向かう国に金を残しておいても無駄金、死に金になります。優秀な人間は生産性を維持するため貯金して優れた国に行くべきです」
「お二人のような優れたお方が上に立たれるこの国が羨ましい限りです。私どもの国では政府の人間が自分たちだけで金を回しているので庶民には回ってこないし世界では価値がありませんからねえ」
皮肉に皮肉を被せている彼らの会話は普段ならニヤつくところだが今は震えを抑えるので必死だ。だが震える足が朽ちたテーブルの角に当たり崩れ落ちてしまった。
「ん! 誰だ!」
背広から拳銃を取り出し、コッキングする音が聞こえた。初の実戦で命を落すとはセオリー通りだと諦めるしかなかった。




