第15話 拠点も消えればいいのに
海外と接続されたVR空間でのゲームを通じて現実にあるアンドロイドを操作するシステムは労働の革命をもたらすと同時にハッキングによる犯罪も増加させた。
VR空間内でも有名配信者を装い荒稼ぎする者も後を絶たない。なぜそんな事が可能になったのかというと、AIアバターの発達だ。
初期の頃は本物かどうかは認証を受けてログインすれば判別できるようになっており、声も簡単には真似が出来ないようになっていた。
その頃は他人を装う事をするためには他のプログラムを噛ませる必要があり、今もそうなのだが当時は回線に負荷がかかり過ぎてぎこちない動きになるので比較的、バレやすいものだった。
だが、今はそれも回線技術が更に発達したおかげでより大量のデータをやり取りできるようになったのでぱっと見ただけでは分からないようになっているのである。
夏喜らのような特殊な活動をしている者は見分けるためのプログラムを走らせ続けているために分かるが普通の人間ではそこまでする者はあまりいない。
何故なら、現実が残酷になりすぎて騙されてもべつに構わないという意識でVR空間を楽しむ層がいるのである。
かつては人気配信者は手が届きそうで届かない、引退すれば全てが消え去り残酷な現実に打ちひしがれるという経験をする事もあったがその経験はVR技術の発展と共にこの空間での日常となった。
大切な友人だと思っていた者が実はとんでもない大物経営者だったり、逆に前科者だったりするが通信の安全性はかなり高くなっているので実際に何かが起こるという事はまずないが別れを告げられ、連絡先も教えて貰えなければ思い出以外は全て消え去るわけだ。
その経験は人間関係の構築は簡単になったが繋がりを持つことがあまりに大変な事になってしまい、せっかくの暖まった心は一気に冷え切る事になった。
そういうわけでこの時代にはもう推し活というものは無いに等しい。何が本物か分からない空間でしか認識できないアバターは本当に血が通っていないアンドロイドだったというのもよくある事だ。
酒場では話が続いているが彼らから面白い話が聞けた。
「そういや、その五十年前に俺たちの国に来た老後を豊かに過ごそうとして失敗した日本人の孫たちがお前らくらいの年の学生なんだろ?」
「うん。僕たちくらいかもう少し年上が多いかな。と言っても。子供を産む年がバラバラだから一概にどのくらいかというのがハッキリしなくなっているけどね。
何も考えずに産む二十代くらいまでの若い層と、子供の将来の事を考えているうちに四十代になった層と幅広いよ」
最も、子供の事を考えるどころかここ数十年、出会いが無さ過ぎて実は統計上は体外受精で出来た子供という事になっていても精子提供者からだったりするのだが。
「俺たちの国では考えられないんだよな。子供を作れるようになったら愛し合う仲に自然となるものだと思うんだがな?」
「この国じゃ打算ばっかりだよ。杏はどう思う? 恋愛結婚とか憧れるの?」
尋ねられた杏は何とも言えない表情で答えた。
「う……う~ん。私だって女なんだからそれは憧れるよ。かっこいい男から告白されたら嬉しいもん」
杏はもじもじしながら夏喜の問に答えた。サバサバした感じの少女だが恋愛に憧れる乙女である事に違いはない。
「だろう? 羨ましいよ。俺たちの国の田舎では許嫁がほとんどだから嫁が本当に結婚したいのか分からない事が多いんだ。だからこそ、男が責任を持つのが当然だって言われてる」
「それも大変だなって思うよ。この国じゃ結婚しても養えないし、嫁に裁判を起こされたら旦那が不利になりすぎて立ち行かなくなるからね。ねえ、杏」
「な、何よ。失礼ね。そんなのと一緒にしないで」
やり取りを見た彼らは笑った。
「ハハッ! 良い子じゃないか。俺たちの国も都市部じゃ打算で結婚するロクでもないのもかなり増えたが、このアンって言うのか? この子は違う。良い子だと思う」
「そうじゃないと……ああ、何でもない。ところで君らの知っている人物でもいいんだけど日本の田舎に活動拠点を作ろうとしている人たちがいたりしない?」
「そういやいたな。何でも特殊な車の整備をするために雇われている連中がいて人目に付かないところで何かやってるって聞いた。
でも関わるのはよせよ。殺されるぞ、俺のいる国では本物の銃を持っているヤツも珍しくない」
夏喜はレジスタンス本部から日本の田舎でアンドロイドを活用した活動拠点を作ろうとしているのではないかという情報を聞いていた。
製薬会社に突っ込んだ車両爆弾といい、元々、そういった知識のある人間が関わっている事は間違いないと思っていたが外国人を雇って車両爆弾を量産する計画があるのかもしれない。
夏喜と杏は一旦、この情報を持ち帰りレジスタンス本部にて精査する事にした。




