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第14話 スローライフは贅沢ライフ③

 田舎の酒場での話は続き、夏喜らは他の国から今の日本がどう思われているかを体感する事になる。

 憧れだった先進国が落ちぶれ、犯罪者の巣窟になっているところが未だにあり、一度弾けたバブルはずっと崩壊したままになり、金も希望も無くなり恋まで無くなり子供も生まれなくなってしまった。


 そうして国民は現実逃避を続け、その集大成とも言える技術である触れた感覚まで共有できるVRゲームを開発した。

 これは現実で出来なかった事の多くの夢を叶える事に成功すると同時に日本の労働力不足も補える技術として成長した。


 アンドロイドや作業ロボットを接続して遠隔で操作できるようにしたのである。これなら日本に来ずとも他国から労働が出来る。

 今の世の中は資本主義は限界を迎え、もう終わる、もう終わるのだと期待する者も居た。貧富の格差は絶望と犯罪を生むと言う事が分かっている者たちである。


 だが、世界の富はごく僅かな者たちに独占されておりその者らの都合のいいように出来上がってしまっている。


 独占が多少、崩れてはまた欲望のまま独占する。金持ち達の欲望は止まるところを知らない。この悪夢を終わらせられるのは大部分の名もなき市民が動く事だけだ。


 外国人が操作している遠隔アバターの一人は話を続ける。


「何でも俺たちの爺さんらが日本に出稼ぎに来ていた頃は自分の国じゃ上手く行かないなら他の国に稼ぎに行こうって時代だったらしい」


「その時代なら僕らも知ってるよ」


 そう、この時代はどこの国でもそうだった。自分の国でダメなら他の国に行って働いたり住んだりしようという思想が蔓延っていた。

 だが、世界は隣の青い芝しか見ていなかった。何処の国でもなのだがIT技術が発達し続ける先にあるのは止まる事のない高みという名の際限のないレベルの追及だった。


 世の仕事と呼ばれるものの大半はしたくない嫌なものである。なのであれもこれもと要求されれば辛くなるし、すぐに限界を迎える。

 なのに景気が悪くなれば少ない人数で回したいから何でも出来るようになれと言われ、IT技術が進歩したのだからシステム的に管理された人間は効率良く動くのが当然だと言われるようになった。


 これは一つの会社でもそうだし、世界全体で見てもそういう傾向になっていった。金持ちが持たざる者に与えているのは割に合わない安い給料である。

 高級車の窓から蔑んだ目で見ながら撒かれる金にいい気はしないだろう。だが、それを拾うのが嫌なら文句を言うだけで行動しないのでは変えられない。


「今となってはこうしてVRゲームを通じて金儲けが出来るようになったから割のいい仕事を楽にできるようになった。

 でも、俺たちみたいな農家は昔から冷遇され続けているのは何でだ? 腐敗した政治家にとって都合が悪いからだ」


「それはこの国でも同じだよ。まあ、他の国の農作物を輸入させないといけないからってロビー活動をしてそれに騙された国民と、ストレス解消のネタに使った国民がいたんだ。

 気が付いた時にはもう、どうにもならない状態にまで悪化していた農業だったけど形だけでも先進的な農業を取り入れたらこのザマだって聞いたよ」


「そうそう。俺たちの国から見ればいっちゃ悪いが馬鹿だなって思う。どうして自分たちの首を絞めるのがそんなに好きなのか俺にはわからない」


「この国にはみんな苦しいんだから一人だけ楽するのはダメとか、許せないとかいう思想があるんだ。だから成長しようとすれば出る杭は打たれるって言って潰される。

 不平不満の解消のために文句だけはいいまくる。その結果が今の状態だよ。田舎なんてもうインフラがほとんど機能していないところもあれば放棄された集落ばかりだ」


「俺たちから見ればもったいないなって思う。労働者に適正な賃金を払って経済を回せばよかったのに政治家と権力者と金持ちしか生き残れない国じゃ国民が生きていけない」


「それを分かっている人が実に少ないんだ。分かっている気になっている人は海外に行ったりしたけど結局、失敗して帰ってくるんだ」


「それは昔から同じだろ。俺たちの国にも昔、かなりの日本人が来たって聞いた。何でも物価が安いし暮らしやすいってな。

 でも、もうあの頃には既にほとんど物価が変わらなかったのにおかしな事を言ってるなって見ていたら国のシステムに馴染めずに帰って行ったって聞いた」


「うん。多分、もう肉体労働をするという概念がなかったんじゃないかな? いつの話かわからないけど」

「え~……ああ、思い出した。五十年くらい前って言ってた。爺さんが若い頃って言ってたな」


「ああ。そういう事か。多分ある程度、年を取った人たちとかが安い物価と田舎ののんびりした暮らしに憧れて行った時期があったって言ってたからその頃だと思う」


 そう。夏喜は祖父の一郎から隣の青く見える芝を踏もうと勇んで行った者たちの事を言っていたのを思い出した。

 少し考えれば分かる事ではあると思うのだが、先進国があまりに酷い状況になったとなれば周りの国もその影響を受けるので天国を引き当てるにはコネも運も必要になる。


 自信過剰な行動と見栄は破滅を招くのは世の真理だが目先の利益しか見えていないと盲目的な行動をする。

 それを彼らは教育レベルが高いはずなのにおかしな事をしていると冷ややかな目で見ていたというわけである。

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