第13話 スローライフは贅沢ライフ②
夏喜と杏は一通りの作業を終えたあと、農家同士の寄合所のようになっているバーに向かった。
日中、作業をしながら怪しいアバター使用者が居ないかをAIアバターを利用してレジスタンス本部でも見ていたのだがそれらしいのは見つけられなかった。そういうわけでバーに寄ってみたのである。
「さて、ビールという名の飲んだ感覚がする気がするだけの飲み物を頼んで……」
「あと、ガーリックとスパイスの効いたフライドチキンを頼んで……」
『乾杯!』
「……本物はまだ飲めないけど仕事終わりの一杯が楽しみで重労働をするというのは実に前時代的な労働とその疲れを癒す方法の一つだと思うね」
「そんな事言ったって今も変わらないでしょ。生活に必要とされている仕事ほど待遇を良くしないといけないのに資本主義はそれを許さなかった」
「だからこうして今でも人類はあぶく銭を求める。それが自らの苦しみの元だとも知らずに」
そう。幾ら金を積んでも、お金で愛は買えないというのに必要な人に金が行き届かないのは世の不条理の一つであろう。
それが積み重なると金が集まっているところに犯罪者も集まる。そうして犯罪組織が出来上がる事が増え今のようにテロリストも肥大化していったのである。
そもそも金というものはどうすれば出来るのか? 手段の一つはある企業が銀行にこういう商売をしたいから融資してくれと頼んで金を貸してもらう。
その金を企業が受け取ると、これが金が生まれる瞬間の一つとなる。そして現代ではその金は重労働よりもIT産業に流れ続け今に至るというわけだ。
なので稼ぐ手段は第一次産業からこのゲームのようにネットの世界に移行してしまったものも多いのである。
夏喜と杏はそれを学んでいるのかというと……やはり都合が悪い事は学ばせないのだろう。
しばらく料理を食べていると農業用アンドロイドの遠隔操作をしていたと思われる二人の男が入ってきた。
「日本の田舎の狭い道は俺たちの国の田舎と同じくらいだったな」
「そうだな。でも何であんな何もない田舎なんて放置しないんだろうな?」
「分からないよな。まあ、俺たちは金さえ貰えればいいし除草作業くらいなもんだから楽だよな」
この二人となら会話をしても大丈夫そうなので夏喜と杏は同じテーブルに着き一緒に話そうと言った。
「ねえ、お二人さん。ご一緒してもいい?」
杏が営業スマイルで迫る。
「いいぞ。座りなよ。日本人は見ず知らずのヤツとは一緒のテーブルに座りたがらないもんじゃないのか?」
やはり外国人の遠隔操作アバターだった。今の日本には自動で除草するロボットも配備されているが地形が複雑なところではどうしても人間が確認しながら作業しないと危険な箇所もある。
それは何らかの文化財のようなものがあったり、通信ケーブル等をまとめる施設だったりと破壊されては困るものもあるのだ。
先ほどの疑問に夏喜が答えた。
「うん。そういう人が多いね。僕たちはそういう事に疑問をいつも持っている人間なんだ」
「その方がいいと思うぞ。寂しいじゃないか」
「ところで何の作業をしてたの?」
「ああ。狭い道ばかりの田舎の草刈りだ。日本人は農業をしなくなって久しいと聞いたがアンドロイドを使った草刈りすらもうしたくないんだな?」
その疑問に夏喜が答える。
「そうなんだよ。お金にならないからしたくないって人が多いんだ」
「でも、これは田舎暮らしを体験するゲームでもあるんだろ? 俺の国じゃ朝の涼しいうちに草刈りをして機械を使うのは昼の前後ってところだ。暑いからな」
「もう今の日本人はそういう農業は記録映像でしか知らないからね。それに興味の無い事は頭に入らなくなった人が多いから」
「だよなあ。俺の国でもそうなってきてる。田舎だとテレビを見ながら収穫した野菜の仕分けとかをするけど都市部に近づくとそれすらしなくなってるからな」
「じゃあ、機械化までもう少しってとこ?」
「う~ん……分からないな。国は金回りが悪いし政治家は汚職まみれなんだ。だから機械化したら生活に困る人が増えるしそもそも自動で動く機械は国営農場でも作らないと買えないと思う」
「今の日本も一緒だね」
「でも、俺たちの国も日本がここまで酷い事になるなんて思ってなかった。俺の爺さん婆さんは生活が行き詰ったら日本に出稼ぎに行っていた。
ある日、スーパーでブロック肉を買って燻製を作ろうと思って手に取ろうとしたら高くて躊躇したが、横にいた日本人はちらっと見ただけで”高くて買えない”って言うのをよく聞くようになったって言ってた」
「そして、このままでは意味が無いと思って帰国したと」
「そう。まさか日本みたいな先進国があそこまで落ちぶれるなんて思わなかったって言ってた」
彼らとの飲み時間は続く。




