第12話 スローライフは贅沢ライフ①
夏喜の祖父が若い頃の話だが、選挙権を得た時に既にこの国の病巣はかなり深刻化していたという話をしていた。
当時は若者が選挙についての話をする事はおかしな事だと言われており、どこに投票しても同じだとか、自分には関係ないとか言っていたのだという。
だが祖父は仲間や身近な人には「このままではこの国はあの政党が好き放題して全てが終わる。自分の今後の人生に関わってくる事なのだから真剣に考えなければならない」そう言っていた。
残念な事に祖父の言葉は彼らに届く事は無かったのだが、ある時から時代は変わり政治に興味を持つ若者は増えた。
そういった若者と話す機会が増えた時、祖父は自分を馬鹿にして政治について何も考えなかった人物がどうなったかを話したのだがそれはよく聞いていたのだという。
まあ、内容は想像に難くない。ある者は人間関係もおかしくなり祖父を徹底して避けるようになったという。またある者は怪しい商売に手を染め、どこかに消えた。
さらに時は経ち元々、壊滅的だった農業に転機が訪れた。他の国は補助金を出して農家が消滅しないようにしていたのだがこの国は違った。どう頑張っても儲ける事が出来ない段階にまで来てしまった農家が増え続けたのである。
この国家の危機と言える状況なのに国民は何と、赤字なら辞めればいいと言った。持たざる者が如何に恵まれているかを知らないのである。
儲からない農家というのはまさに三重苦という状態であり、辞めたくても簡単に辞める事は出来ない状態であった。
まず農家は農地を持っている事が普通だが、この農地というのが最も厄介で手放したくても買い手が付かない、法的な制約で売れない、国に寄付するから貰ってくれと言っても断られるという問題があった。家も田舎にあれば同様である。
生活が厳しくても固定資産税を払わされ、水利費も地域から催促される。歳をとれば体力が落ち、若い頃のように動けなくなると除草するためにトラクターを運転する事も大変になる。
そうなると農機具も古くなってくるので修理費がかかる。収入も得られないのに修理して除草しないといけなくなってくるがこの時に修理費が莫大であるなら他人や農業組織にやってもらう事になるがそれでも金はかかってしまう。
そうして地獄の晩年を耐え抜いてやっと手放せる状態になった時には所有者は既にこの世に居ないという事も珍しくなかったのだという。
そしてこの問題は国の貧しさと共に進行し、人口減少と共に大規模農業に適した土地が増えていく事で農業の大規模化が進んだ。
見渡す限りの田畑で地平線の向こうまで自動運転の作業機が一日中、騒音と共に土地を耕すのである。
進んだ農地の整理と開発は自動化を進め人の手があまり必要でなくなっていった。皮肉な事に高性能化した農機具や科学肥料は高騰を続け農作物の価格はそこまで下がる事は無かった。
大規模農業でも農作物の買い手が付かなければ利益が出ないのは当然の事で島国からは輸出するにも金がかかり、他の生産国との競争には不利なのである。
個人で農業をするというのは金がかかる贅沢な趣味へとなってしまったのである。今や社会に疲れて農業をするというのはゲームの中の話になってしまった。
―― ファームシミュレーター ――
農業をするためには初期投資が必要だが、ゲームの世界でも同様であった。ゲームの中の農機具や農地を買うのにも金が要る。
何が悲しくて現実の農業でもゲームでも赤字を垂れ流すのか分からない。国営農場を増やせばある程度は解決すると思うのだが、これは資本主義を皮肉ったゲームとしてはいいのではないだろうか。
夏喜はトラクターに乗り田を耕していた。うねを立てて野菜を植えるためである。最近では農地が整理されているので人間が操作する事はあまり無いのだがこのゲームでは発展途上国の田舎が舞台でスローライフを送る事も体験できるようになっている。
『夏喜、そろそろ苗を植えてもいい?』
無線で野菜の苗を植えるために待機している杏から植えても良いのか連絡が入った。
「いいよ。もう少しで畝たてが終わるから植え始めて」
そういうと杏は苗を植え始めた。夏喜は畝たてが終わったらトラクターのアタッチメントを散水アタッチメントに交換して苗の移植後に散水する。
自動化が進んだ先進国から不要になった中古の農機具やアタッチメントが途上国に流入し、それを模倣した現地生産のアタッチメントを取り付けられるように発展していった。
散水アタッチメントに交換した夏喜が杏の元へやってきた。
「おまたせ。僕も植えていくよ」
そう言うと二人は苗をどんどん植えていく。
『二人とも農業青年という感じだな。昔の記録映像みたいだ』
若者の農業従事者はもちろん、今でも居るのだが苗を植えるのは移植機の仕事になりしかも人間は操作する必要が無くなった。
自動運転のトラクターで肥料を撒きながら土地を耕し畝を立て、その後を自動運転の移植機が付いていき、苗を移植する。
その作業が完了したところで大型の移動式スプリンクラーが配管を繋ぎ変えながら散水していく。
壊れた時は人間が車なりヘリコプターなり使って修理に行くのだが修理をサポートするアンドロイドが一緒に移動しているので昔より整備も楽になったというわけだ。
そんな世の中になったのにこの二人が何故、前時代的な農業シミュレーターをしているのかというとこのシミュレーターは途上国で稼働している農業用ロボットと連動させる事が出来るため、テロ活動の訓練としても、実際のテロにも利用できるためそのテロリストを探すためである。




